食品スーパー「オーケー」の有報が面白すぎる 首都圏に113店、独自なのは戦略だけじゃない

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ファン作りという姿勢は資本政策にも現れている。オーケーでは2007年~2009年にかけて、計3度、種類株式を発行している。応募資格をオーケークラブの会員である個人に限定、証券会社による引受を付けず、応募はオーケーが直接、店頭で受け付けた。

同社の株主数は、普通株で法人77に対し個人が257人。これだけでも未上場会社としてはかなりの数だが、これに種類株の延べ5647、うち個人株主の5638が加わる。

株主になってもらい「同じ船に乗る」

種類株の調達総額は3回合計で73億円強だった。販管費35日分程度の金額でしかないので、顧客に株主にもなってもらう趣旨だったことは間違いない。種類株は議決権こそついていないが、配当順位も残余財産の分配順位も普通株と同順位。直近の配当性向は18%で、「世の趨勢に合わせて、少しずつ高めている」(二宮社長)。

1株あたりの発行価格は2007年7月発行分が2500円、2008年9月発行分が3074円80銭、2009年9月発行分が3530円20銭。算定方式は直前半期の経常利益の55%を2倍し、発行済み株式総数(普通株と種類株の合計)から自己株を差し引いた株数で割り、それを17倍する。

つまり、1株あたりの税引き後の経常利益の17倍である。特損益を考慮しないので当期純利益ではなく経常利益を使うが、税金は考慮するので経常益の55%。それの17倍だから、感覚的にはPER(株価収益率)が17倍ということだろう。

オーケーの二宮涼太郎社長。三菱商事出身。小売業はまったくの畑違いだったが、「日々改善で面白い」(2017年1月に今井康一が撮影)

株主は自由に株を売買することはできないが、発行翌年から1月と7月の年2回、会社に取得請求できる。この際の算定方式も発行時と同じ。直近半期の経常利益が79.8億円(単体ベース)だったので、現在の買い取り価格は、ざっと5400円程度となる。

種類株主は同社の成長によって、配当だけでなく、それなりの果実を得ていることになる。同社の普通株主には取引先が多く、「株主になってもらい、取引先、そしてお客様と一つ同じ船に乗る」(二宮社長)。

もっとも、種類株について議決権までは与えていないところは手堅い。現時点では新たに種類株を発行する計画はないという。

オーケーは株主に送付している事業報告書にも、有報と同じ文章を載せている。有報はプロしか読まないだろうが、事業報告書は個人株主でも普通に目を通す。

有報も事業報告書もプロが読むもの、という発想から脱却し、個人にもわかりやすい情報開示を心掛ける。自社製品の優待の次の一手として、ファン株主を増やしたい上場企業にとっては大いに参考になるのではないだろうか。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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