東芝とPwCあらたは市場へ説明責任を果たせ 八田教授、久保利弁護士は何を問題とするか

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八田進二教授(写真左)と久保利英明弁護士(写真右)。共に内部統制のエキスパートであり、第三者委員会報告書格付け委員会の構成員でもある(撮影:尾形文繁)
青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科の八田進二教授が、今月末をもって定年退官する。八田教授は長年にわたって、会計士には高度な倫理観が求められるとし、研究や実務の分野で幅広い影響を与えてきた。昨年起きた東芝とPwCあらたの対立と、その帰結たる10月24日の臨時株主総会は、監査に関するありとあらゆる問題を提起している。会計監査研究の第一人者である八田教授と、総会実務の第一人者である久保利英明弁護士とともに、東芝問題を掘り下げてもらった。
(聞き手は金融ジャーナリスト 伊藤歩)

株主提案却下した東芝の総会運営

――東芝が現任監査法人であるPwCあらたと対立した結果、同社の2017年3月期決算の確定が10月にずれ込む異常事態となりました。12月に第三者割当増資が実施され、上場維持も決まって一応の決着を見ましたが、後味の悪いものになりましたね。

八田:一番の問題は、当事者である東芝も監査法人も、マーケットへの説明を怠ったままになっている点にある。最も情報を必要とし、真実を知るべき立場にある投資家が蚊帳の外に置かれ、何が真実なのかをいまだに知らされていない。

――10月24日開催の臨時株主総会でも、出席していた株主から、あらたに説明をさせろという動議が出ましたが、会社側が却下してしまいました。総会出席者は株主のごく一部なのになぜ会社側は却下できたのでしょうか。

久保利:会社側は通常、議事進行を含めた包括委任状を上位株主から取得しているので、それを使ったのかもしれない。平時であれば、議事を妨害するような動議に対抗するうえで有効な手段だが、今回は決算が報告事項ではなく承認事項になっていることだけで十分異常。とても平時とはいえない。

監査法人が無限定適正意見を出していれば報告事項で済むが、見解が分かれたら株主に判断を委ねよ、というのが会社法の規定であり、その規定にのっとって総会承認事項になったのだから、株主に判断材料を与えるという意味で、監査法人に説明をさせるのは当然のこと。本来、会社は自ら監査法人に説明機会を与えるべきなのに、それをしないばかりか、株主からの要求にすら応じないというのは問題だ。

八田:そもそも監査法人は監査先が守秘義務を解除しなくても、株主総会で自ら発言できる権限が法的に与えられているのだから、自発的に説明すべきだった。

――あらたが説明すべきだったポイントは何でしょうか?

八田:大きく分けると4点ある。1点目は内部統制が機能していないと判断したら、通常の監査手続が実施できないということであり、監査契約を解除するか辞任すべきなのに、辞任することなく限定付ながら適正意見を出した理由、2点目は今も辞任することなく監査を続けている理由、3点目が限定付適正意見をその本来の定義から外れるケースで出した理由、そして4点目が2017年3月期について、第2四半期まで無限定の意見を出していたのに、第3四半期になって突然意見を翻して不表明にした理由だ。

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