東芝とPwCあらたは市場へ説明責任を果たせ 八田教授、久保利弁護士は何を問題とするか

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――臨時株主総会の13日前の10月11日、日本取引所自主規制法人が特設注意市場銘柄の指定を解除したことにも批判的な意見が出ています。久保利先生は2017年6月まで自主規制法人の外部理事を務めておられました。本件の判断には関与されていませんが、株主総会の結果を見ずに特注指定解除をしたことについてどう思われますか?

久保利英明(くぼり ひであき)/日比谷パーク法律事務所代表弁護士、桐蔭法科大学院教授。1944年生まれ、1967年司法試験合格、1968年東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録、森綜合法律事務所入所。1998年日比谷パーク法律事務所を開設し、現任

久保利:総会の結果を見てからでもよかったのでは。この総会で取締役の人事が決まる。

自主規制法人の佐藤隆文理事長は、東芝から上がってきた書類を検討して結論を出したと言っており、総会は意識しなかったとしているが、自主規制法人が内部統制が正常化したと判断しても、経営陣が株主からの信任を得られないのでは意味がない。総会での投票行動に影響を与えようとしたのではないかと勘繰られるリスクもあった。

守秘義務解除対象になっていない取引所

――特注を解除するかどうかの結論も、全員一致ではなかったようです。

久保利:社外理事のうち少なくとも1人が明確に反対したと聞いている。特注を解除したから総会で取締役の選任議案に賛成票を投じた人がいたかもしれない。

――佐藤理事長は月刊誌『文藝春秋』(2017年12月号)に寄稿した手記でも、また、『週刊東洋経済』(同年12月2日号)のインタビューでも、あらたが調査に協力をしなかったと言っています。

これは少々驚きでした。取引所は確かに株式会社であって、役所ではありませんが、役所と同等というのが、平均的な上場会社の感覚ではありませんか。倫理規則にも6条には監査先の承諾がなくても、守秘義務を解除してよいケースが列挙されていています。訴訟手続の過程で、文書を作成したり証拠を提出する場合のほか、法令等に基づく質問、調査又は検査に応じるとき、というのもあります。

八田:後者は証券取引等監視委員会や金融庁等からの質問、調査、検査を想定していて、実は取引所に関しては明文化されたものがない。そもそも監査人はいずれの者からも独立性を保持していなければならないので、取引所とコミュニケートする機会も通常はないだろう。だから守秘義務を解除して良いケースと判断することに躊躇があった可能性はある。ただ、世間からは、守秘義務をタテに、説明を拒んでいるように見えていることは自覚すべきではないか。

久保利:東芝は自主規制法人の審査に対し、なぜ守秘義務を解除しなかったのか。監査人の話も聞けないまま判断したのだとすると、自主規制法人はずいぶんとリスクを負ったものだと思う。

八田:上場規則で監査人の取引所への協力義務を盛り込めばよいのでは。そうした透明性の高い対応がなされるのであれば、当局も問題視することはないのではないか。そうすれば、守秘義務をタテに説明を拒んだとは言われなくなる。いずれにしても、監査人は、自身に説明責任があることを自覚すべきだ。現時点の法制度下でも監査人には、総会の場で守秘義務に縛られることなく投資家に説明する権利が与えられている。

監査結果の受益者は株主であり投資家なのに、監査人は会社が選ぶのであって、株主・投資家は直接選定に関与できない。だからこそ監査に携わる会計士には高度な倫理感が求められる。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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