私たちは、つねに自分の経験則で物事をとらえ、それが当たり前だと思い、疑いません。よって、説明をしなくても当然、相手も同じことを認識しているという感覚に陥っています。特に同じ日本人なんだから、同じ文化圏なんだからという意識がそれを強め、違っていたときに相手に対して「普通そうだよね?」と怒りにさえ変わってしまう自己中心的な発想です。
日常のやり取りの中では、この自分本位の「当たり前」が相手を傷つけ、また、相手に対し、いらぬ怒りを生んでしまう原因ともなるのです。
私たちは、思い浮かべた状況を「言語」という「共通の記号」で相手に伝えようと試みます。今までの体験を通じての価値観や学習した経験などによって、表現方法(言語の言い回し)を選択します。
何かを説明しようとするときに、ゴムボールみたいなものを思い浮かべて「柔らかい」といったと仮定します。しかし、それを受けた側は「柔らかい」という表現から、ゴムボールを思い浮かべるとは限らず、「羽毛のように」とか「マシュマロのように」と解釈することが生じます。これは、聞く側の経験や価値観、そして思い込みが大きく作用します。
相手に正確に伝えるには?
ですから、相手に正確に伝えるためには、頭に思い浮かんだことや気持ちをより細やかに伝える必要があるのです。
企業研修などで、2人組になって言葉かけのみで相手に絵を描いてもらう、図形のピースを組み合わせて形を作ってもらうといったワークをすることがあります。ほとんどの場合、言葉かけを行ったほうが意図していたのと同じ絵は描けず、単純な図形をくみ上げることも困難です。
たとえば、ただの丸を紙に書くにしても「丸を書いてください」というだけでは、相手は、好き勝手な場所に好きな大きさの丸を描きます。紙のどのあたりに、どのくらいの大きさの丸を描くのかを伝えなければ、こちらが意図した丸を描いてもらうことはできません。要するに、自分の言いたいことを「端折って」伝えていることを自覚する必要があります。
相手にわかってもらうためには、相手がわからないことを前提に伝えることが大切です。たとえば、何かをすることに慣れていない子どもに対して説明するように、日本語をまだ使いこなせていない外国人の友人に対して解説するように、という感覚だとわかりやすいでしょうか。
相手に対して、初めてのことを教えるインストラクターになった心づもりで、具体的な言葉を、あと一言伝える配慮があるとよいかもしれません。
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