九州「太陽光で発電しすぎ問題」とは何なのか せっかくの再エネ発電を無駄にしない秘策

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P2Gの取り組みで先行しているのはドイツだ。

ドイツは、総電力消費量に占める再エネ電力の割合を、2030年に50%、2050年までに80%とする意欲的な目標を掲げ、再エネ発電を着実に拡大している。現在でも30%を超え、大量の余剰電力発生が問題となっているが、80%になった場合、再エネ発電が需要を上回る時間帯がほぼ毎日出現する。その対策として、国を挙げてP2Gに取り組んでおり、現在、国内で30を超えるP2G実証プロジェクトが実施されている。

ドイツのP2Gプロジェクトは、余剰電力を水素で貯蔵し再度電力に戻すという基本形だけでなく、水素のいろいろな用途に対応した多様な技術実証が行われている。

最も多いのは天然ガスグリッドへの注入だ。ドイツは、国内に天然ガスパイプラインが張り巡らされている。再び電気に戻すより、水素のままパイプラインに注入し、混合ガスとして熱利用したほうが効率がよいという発想だ。パイプラインは巨大なガスタンクでもあるので、貯蔵と輸送の両面でメリットがある。

ドイツの電力大手E.ONが手掛けるプロジェクトでは、風力発電の電力で製造した水素を最大10%まで天然ガスに混合し、「E.ON WindGas」の商標名で販売している。

メタン化(メタネーション)プロジェクトも多く見られる。再エネ由来の水素をCO2と反応させてメタンガスを製造し、パイプラインに注入する。水素ガスの場合、天然ガスに混入できる割合は最大10%程度だが、メタンガスならパイプラインへの注入に量的制約はない。メタンガスは燃焼時にCO2を排出するが、もともと大気中のCO2を原料としているので、差し引きCO2の排出はゼロだ(カーボンニュートラル)。

アウディやバイエルなどのほか、日本企業も参画

自動車メーカーアウディの「e-gasプロジェクト」は、風力発電由来の水素と近隣のバイオガスプラントが排出するCO2からメタンガスを製造し、アウディが市販する天然ガス自動車の燃料として供給するものだ。なお、このプロジェクトの共同参画会社の1つであるエトガス社(P2Gシステムの開発・販売)を、日立造船グループが2016年に資産買収した。この結果、日本企業が間接的にドイツの国家プロジェクト参加企業となっている。

水素は、化学原料や還元剤として工業用途にも使われるが、そうした用途に再エネ由来水素を利用するプロジェクトも進められている。

化学・製薬大手バイエルの「CO2RRECTプロジェクト」では、再エネ由来水素とCO2を使って、プラスチック製品の元となる化学原料を製造する。化石資源を使わずに石油化学製品を人工的に作りだす試みだ。

ドイツのシーメンスとオーストリアの鉄鋼メーカー、フェストアルピーネが進めるプロジェクトは、製鉄プロセスに再エネ由来水素を使うものだ。通常のプロセスでは、コークスを使って鉄鉱石に含まれる酸素を除去(還元)するが、コークスの製造および還元工程で大量のCO2を排出する。これを水素還元に置き換えるもので、「H2Futureプロジェクト」と名付けられている。

こうした先進的な取り組みは、再エネ発電の不安定対策というだけでなく、再エネ水素の製造および活用に新たな道を開くものでもある。

わが国でも、P2G実証プロジェクトが始まっている。ドイツとは天然ガスパイプライン網の有無など状況は異なるが、参考となる点は少なくない。

西脇 文男 武蔵野大学客員教授

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にしわき ふみお / Fumio Nishiwaki

環境エコノミスト。東京大学経済学部卒業。日本興業銀行取締役、興銀リース副社長、DOWAホールディングス常勤監査役を歴任。2013年9月より武蔵野大学客員教授。著書に『再生可能エネルギーがわかる』『レアメタル・レアアースがわかる』(ともに日経文庫)などがあるほか、訳書に『Fedウォッチング――米国金融政策の読み方』(デビッド・M・ジョーンズ著、日本経済新聞社)がある。

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