「スキャンダルまみれの世界銀行が抱える宿痾」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフ

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アメリカ人以外から世銀総裁を選出せよ

 なぜ世界各国はおとなしく現状維持に甘んじ、アメリカに世銀総裁を決めさせてきたのだろうか。

 答えは簡単だ。ヨーロッパは世銀の姉妹機関であるIMF(国際通貨基金)専務理事を指名する特権を維持したいがゆえに、アメリカのやり方に干渉しようとしないのである。そして、アジア諸国は世銀とIMFに十分な代表を送り込めないために、アメリカとヨーロッパのずるいやり方を受け入れる以外に何の選択権も持っていないのである。さらに、アフリカの指導者が、世銀からの資金援助を阻害しかねないようなことを口に出すことはまずない。

 私を含めた多くの人々は、長年、世銀とIMFのトップの選出方法に不満を述べてきた。世銀とIMFは自らを改革できずに、どうして途上国に対してよきガバナンスと透明性に基づいて開発を行うべきだと講釈を垂れ続けることができるのだろうか。

 世銀とIMFは自己改革に関して口先で対応するだけで、今まで本気にその意欲を示したことはなかった。ただ公平を期して言えば、IMFの首脳は、力強く成長を遂げている国、特にアジア諸国にIMFの運営でより大きな発言権を与えるために断固たる努力を行ってきた。その努力をさらに進めていけば、最終的に改革を引き起こすことになるだろう。だが不幸にも、IMFの組織改革は遅々として進んでいない。世銀では、何の変化も起こっていない。

 おそらくゴードン・ブラウン英財務大臣が次期英首相になれば、世銀とIMFの改革を行うようG7諸国を説得するだろう。IMFの監視委員会の委員長であるブラウン財務相は、問題を熟知しているはずだ。そうなれば、世銀総裁あるいはIMF専務理事は、今までとは違った分野から選ばれることになるだろう。

 実際、アメリカ人以外で極めて優れた資質を持つ候補者は多くいる。たとえば、南アフリカのトレバー・マニェル財務相は世銀の監視委員会委員長の役割を十分に果たし、優れた世銀総裁になれる資質を示した。アメリカ人でも、クリントン前大統領には総裁の資質があるはずだ。

 ともかく、世銀とIMFのトップの選出方法を至急見直すべきである。ウォルフォウィッツ氏のスキャンダルによって、もうこれ以上現状維持は続けられないことが明らかになったのだから。

(C)Project Syndicate

ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名をはせる。

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