「スキャンダルまみれの世界銀行が抱える宿痾」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフ

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ポール・ウォルフォウィッツ世界銀行総裁のスキャンダルは、世界銀行改革の呼び水になるのだろうか。「アメリカの大統領が世界で最も重要な開発機関の総裁を一方的に指名する」という古臭いやり方に終止符が打たれることになるのだろうか。

 そもそもの騒動の発端は、ウォルフォウィッツ総裁が自らの総裁就任の下準備をした褒美として、恋人に過剰なほどの手厚い給与を与え、昇進させたことにある。その後、同総裁は激しく抵抗したにもかかわらず、世銀の監視委員会が異例ともいえる非難を表明し、世銀の専門スタッフが公然と反旗を翻したことによって、最終的に辞任に追い込まれてしまった。世銀が経済発展のカギを握るとして高いガバナンス基準の重要性を強調しているときに、こうした情実的な対処が明らかになったことで世銀に対する信頼は大いに損なわれた。

 ウォルフォウィッツ総裁の辞任後、もしアメリカの大統領、つまりブッシュ大統領が後任の総裁を選ぶという世銀設立以降の慣習が踏襲されれば、今回の失態から得る教訓は何もないだろう。次期世銀総裁は、アメリカ、ヨーロッパ、他の発展途上国の中から最善の資質を備えた人物から選ばれるべきである。

 ウォルフォウィッツ総裁の弱点は、国際協力に消極的なアメリカ政府によって、強引に総裁に指名された点にある。世銀は開発金融を行う機関である。しかし、同総裁はアメリカの国務省と国防総省に勤めた経歴こそあるものの、開発分野でも金融分野でも何の専門的な知識も経験も持っていなかった。彼を有名にしたのは、イラク戦争の推進者だったことだ。確かに彼は聡明な人物であるが、公明正大な選択が行われていたら、彼は決して世銀総裁に選ばれることはなかっただろう。

 私は長年、世銀の中心的な業務を貸し出しから無条件の贈与に転換させるべきであると主張してきたし、ブッシュ政権も、それに賛成している。しかし、経済開発の分野でまったく経験のない人物を総裁に選ぶことが、世銀の役割の転換を実現させることにはならないのである。

 同総裁の恋人が世銀で働いていたことから、総裁の選択はもっと公明正大に行われる必要があるという問題が浮上してきた。この問題は一見些細なように見えるが、世銀が“情実主義”に反対するという政策をとっていることからすると、決して些細なことではない。同総裁が誰も文句のいえないほどの優れた資質を持つ人物であったなら、世銀の選考委員会は、この問題をもっと巧みに処理する方法を見つけ出していただろう。しかし、総裁としての資質に疑問があったために、恋人問題によって同総裁は失格と判断されてしまったのである。

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