「ブロックチェーン信仰」が揺らぎ始めた理由 金融は「電子化・集中化・規制強化」に向かう

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暗号資産の仕組みには問題があるが、それを支える「ブロックチェーン」には問題がないと言う人がいる。しかし、5月には暗号資産の根幹技術であるブロックチェーン(分散型台帳)の安全性が揺らぐ事件が発生している。「モナコイン」でブロックチェーンの取引履歴がすり替えられる事件が起きたのである。ブロックチェーン技術は複数のコンピュータが取引を相互承認する仕組みで、監視が働きやすく、取引履歴の改ざんは起きにくいとされてきて、それを信じる人も多かった。

筆者は暗号資産やブロックチェーン、そしてフィンテックについては、冷静に事実を分析・解説し、『決済インフラ入門〔2020年版〕』(東洋経済新報社)にまとめた。まず暗号資産については、日本銀行をはじめ世界の当局が「暗証資産」と再定義し、一般的な理解の法定通貨でも金融商品でもないことは明確になっている。

また唯一の売りとされてきたブロックチェーンの安全性についても、実際にさまざまな事件が発生し、問題があると認識されている。しかし、最近まで、先に申し上げたように暗号資産は問題があるかもしれないが、ブロックチェーンは問題ないと主張する人がけっこういた。

決定的なBISの報告書

しかし、今年6月に発行されたBIS(国際決済銀行)の「年次報告書」が、ブロックチェーンに致命的な欠陥があることを指摘したのである。先進各国の中央銀行、もちろん日本銀行も参加している。指摘があったのは報告書の第5章。ビットコインを例に挙げ、その仕組みを具体的に解説し、暗号資産の欠陥、特にブロックチェーンを用いた分散型台帳の欠点がはっきりと書かれている。このような説明が「BIS」から出たということ、そしてその”厳しい”論調に筆者も驚いた。

中央型(一元集中管理型クライアントサーバー)システムに比べ、ブロックチェーンを用いた分散型(分散型台帳)は、遅い、効率が悪い、スケーラブルではない(データ量が増えると機能しなくなる、大量の処理でネットワークの混雑が発生するなど)、莫大なエネルギー(電力)を消費する(多数のコンピュータを用いて演算を延々と行うために膨大なコンピュータの演算能力を消費するため)と説明されており、ごもっともといった感じである。

金融取引などの処理や記録にブロックチェーンを応用したシステムを導入すると、決して「安い、速い」になるはずがなく、「運営費用が高く、莫大な電力を消費し、遅い」ということになるわけである。さらに、BISの年次報告書では中央銀行デジタル通貨についてもかなり否定的な評論をしている。

このBISの年次報告書におけるブロックチェーンに対する評価の持つ意味は、非常に大きい。日本では、ブロックチェーンで送金が早く、安く(いつもだいたい10分の1)可能になるなどといった記事を目にしてきた。現在、決済をはじめとした金融取引にブロックチェーンは向いていない、と言われている。まだ使える余地があるとしても、不動産の登記簿や住民票など、たまにデータを書き換える業務に限られている。

実際の金融の流れはブロックチェーンとは逆で、三菱UFJ銀行が行っているように集中化してクラウド化させる方向なのである。三菱UFJ銀行はAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)にシステムをクラウド化させ始めている。 

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