「ブロックチェーン信仰」が揺らぎ始めた理由 金融は「電子化・集中化・規制強化」に向かう

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暗号資産については、日本では交換業者のうち、登録業者が16社あるが、そのうち、トップのビットフライヤーをはじめとして7社が金融庁から行政処分として業務改善命令を受けた。みなし業者も16社あったが、1社はみなし業者から除外され、12社は業務改善命令などを受け撤退した。みなし業者として残っている3社もすべて業務改善命令を受けている。

その厚い売買差益からの収益性の高さから、100社以上が申請中といわれているが、コインチェック事件から、新規登録は許されていない。そもそも、暗号資産交換会社は免許制になる予定であったが、政府がフィンテックというものを推進するために登録制になったともいわれている。それは欧州も同様で、ECB(欧州中央銀行)マリオ・ドラギ総裁も暗号資産には苦慮している。フィンテック(新産業)の育成という名のもとに犯罪の温床を残していいのかと、日本と同じ問題に頭を痛めている。

さらには暗号資産を超えた「フィンテック」全体でも問題が散見されている。ネット経由で融資を仲介するソーシャル・レンディングにおいて、いくつかの業者が行政処分(業務改善命令)を受けてきたが、最大手の「maneo」マーケットまでも処分を受けた。募集時の説明と異なる目的に流用されたのを見過ごすなど、管理体制に重大な不備があったためだ。流用額は少なくとも10億円以上で、焦げ付くおそれがあるということである。

今後の流れは「電子化」「集中化」「規制強化」

フィンテックなど新しい金融サービスに新たな担い手が登場している。ただ暗号資産交換業者と同様、急激な市場の拡大に体制整備が追いついておらず、ずさんな運営実態も明らかになっている。最近、コンプライアンス担当者の求人がものすごい勢いになっている。

筆者は先に紹介した『決済インフラ入門〔2020年版〕』でも著したが、金融にはどんなときにも守らなければならない2つの大原則があると考えている。それは、「善と悪」を区別する視点(犯罪防止)と「プロとアマチュア」を区別する視点(利用者保護)である。その観点が暗号資産・フィンテックには欠けているといわれている。

さらにいえば、今後の決済インフラをはじめとした金融の方向は「電子化」「集中化」「規制強化」と考えている。これは今までのフィンテック強化の流れと相いれるとは限らない。最近の決済インフラの改革の潮流は、銀行誕生以来の変革を金融機関にせまっている。銀行をはじめとした金融機関が近未来には業態転換が図られると考えている。

言うまでもないが、銀行自体も決済インフラである。筆者は、新しい技術を排除すべきだといっているわけではない。むしろ、積極的に取り入れていくべきであると考えている。ただ、金融の原則を守ることが大事だということだけである。

このようなフィンテックをはじめ、暗号資産・ブロックチェーンに対する取り締まりが強まっているなかで、今年7月野田聖子前総務大臣が自ら暗号資産に関する問題を起こしたのは残念でならない。

宿輪 純一 帝京大学経済学部教授・博士(経済学)

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しゅくわ じゅんいち / Junichi Shukuwa

帝京大学経済学部教授・博士(経済学)。1963年生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒。富士銀行、三和銀行、三菱東京UFJ銀行を経て、2015年より現職。2003年から兼務で東大大学院、早大、慶大等で非常勤講師。財務省・金融庁・経産省・外務省、全銀協等の委員会参加。主な著書に『通貨経済学入門(第2版)』『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞出版社)、『決済インフラ入門〔2020年版〕』(東洋経済新報社)、『円安vs.円高(新版)』『決済システムのすべて(第3版)』『証券決済システムのすべて(第2版)』『金融が支える日本経済』(共著:東洋経済新報社)などがある。

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