性的テロを告発したノーベル受賞医師の凄み ムクウェゲ氏が平和賞を受賞した3つの意義

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1996~1997年の第一次コンゴ紛争においては、「ジェノサイド(民族浄化)」とも特徴づけられる非人道的行為が行われた(国連報告書、2010年)。1998~2002年の第二次コンゴ紛争においては、周辺国をはじめとする約17カ国が軍事的や政治的に介入して「第一次アフリカ大戦」とも呼ばれる大規模な国際紛争に発展した。

2003年に公式には紛争が終結してもなお、コンゴ東部では複数の武装勢力による活動が継続し、累計で約600万人という、第二次世界大戦後の世界において、一地域の犠牲者数としては最大の規模になっている。

コンゴ問題は日本人も無縁ではない

今回の受賞をきっかけに、紛争下の性暴力に関心が高まることが期待できるが、それだけでは足りない。コンゴのサバイバーは20年間、「国際社会」による解決を待ち続け、その間男性も含めて多くのサバイバーが亡くなっている(男性のサバイバーの多くは自殺している)。

コンゴにしろ、他の地域にしろ、性的テロリズム、そして紛争自体に終止符を打たなければ意味がない。紛争が長期化している原因の1つに加害者が不処罰でいることが挙げられる。実は、国際刑事裁判所(ICC)はこれまで、コンゴ東部における性暴力の加害者を一人も起訴したことがない。事態の打開へ向け、ICCはもっと積極的に関与する必要がある。なお、性暴力がコンゴ東部ほど蔓延していない同北東部で犯された性暴力の責任者は起訴されている。

ムクウェゲ医師はパンジ病院で、ノーベル平和賞を「紛争で傷ついた全ての女性にささげる」と述べた(写真:Crispin Kyalangalilwa/REUTERS)

同様に、コンゴで起きている紛争とはコンゴ人同士が戦闘している内戦ではなく、地域紛争、あるいは大国などが間接的に関与している国際紛争であるため、ムクウェゲ医師が訴えてきたように、さまざまな指導者らが非暴力な形で政治的解決をしなければならない。

このようにコンゴをめぐっては解決すべき問題が山積している。加えて、世界最大級の国連平和維持活動軍(PKO)が派遣されていながら、なぜコンゴ東部で世界規模の紛争が続いているのか。なぜ「資源の呪い」が起きているのか。さまざまな疑問が残る中、研究や活動に従事する人が増えることが期待されている。

コンゴと日本の関係をさかのぼっても、広島に投下された原爆には、コンゴ産のウラニウムが含まれていた。そして、現在の日本も、グローバル経済を通じてコンゴと関係性がある。にもかかわらず、これらの事実は十分に認識されていない。

ムクウェゲ医師への関心の高まりとともに、性的テロリズムの実態だけでなく、コンゴに関心を持つ日本人が増えることに期待したい。

米川 正子 立教大学特定課題研究員

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よねかわ まさこ / Masako Yonekawa

神戸女学院大学卒業。南アフリカ・ケープタウン大学大学院で修士号取得(国際関係)。国連ボランティアでカンボジア、リベリア、南アフリカ、ソマリア、タンザニアとルワンダで活動。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)職員として、ルワンダ、ケニア、コンゴ民主共和国とジュネーブ本部で難民保護・支援や政策立案にあたる。国際協力機構(JICA)や宇都宮大学、立教大学特任准教授を経て現職。日本平和学会理事。日本国際連合学会理事。専門は難民と強制移動、紛争と平和、人道支援。コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表。著書に『あやつられる難民』(ちくま新書、2017年)、『世界最悪の紛争「コンゴ」』(創成社新書、2010年)。

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