性的テロを告発したノーベル受賞医師の凄み ムクウェゲ氏が平和賞を受賞した3つの意義

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性的テロリズムは、世界各地で広く使用されている自動小銃「AK47」のような武器と違って購入とメンテナンスを必要としないため、費用がかからず、体一つで多くの人々を精神的にも身体的にも痛い目に遭わせられる。

しかも、時折例外もあるが、被害を受けた身体の部分が女性としては他人に見せにくい部分であるため、性的テロリズムはその証拠を残すことも安易に他人に見せることもできず、不可視化されている。

加えて、コンゴのような紛争国では司法制度はほぼ機能していない。結果として、加害者は不処罰でいることが多く、まさに最も効果的で安上がりな武器である。

性的テロリズムは恐怖心を植え付ける

その性的テロリズムが「意図的な紛争手段」として経済的に利用されているのは、コンゴ東部が豊富な鉱物資源を有していることと関係している。

コンゴ東部の資源産出地域および流通経路は、コンゴ国内や近隣国のルワンダとウガンダの武装勢力(国軍と反政府勢力の両アクター)が支配している。武装勢力が鉱山の周辺地域で性暴力をふるうことによって、性暴力のサバイバーとその家族だけでなく、コミュニティ全体に恐怖心を植え付けられる。

コンゴの鉱物資源をめぐって、ルワンダ、ウガンダの武装勢力との争いが絶えない(写真:Peter Hermes Furian/PIXTA)

なぜ恐怖心を植え付けることが重要なのか。それは、加害者、つまり武装勢力にとって住民を支配するのに非常に都合がよいからだ。

まず、集団レイプが家族の前で犯されることが多いうえに、性暴力が不名誉なこととしてサバイバーやその家族を苦しめ、恥や無価値であるといった精神的なダメージをもたらす。村の生計を支える農作業や商業においては女性の働きが重要であるが、直腸まで達するような傷を受けると女性は働けなくなるため、農業や商業が破綻してしまう。

そして、性的テロリズムの残虐さを見せつけられたコミュニティの住民は、恐怖のあまり他の地域や国外に移動を強いられたり、政府や武装勢力に立ち向かう気力を失ったりして従順になる。このような従順な奴隷労働者は鉱山で必要としている。何しろ、鉱山の労働環境は非常に苛酷であるからだ。

こうした鉱物資源と性暴力の関係について、国連も2015年の文書で、「資源と鉱山集落の支配をめぐる武装勢力間の競争は、増加している文民の移動、人身売買や性的虐待と関係している」と指摘している。

ムクウェゲ医師らの調査でも、鉱物が豊富な地域と性暴力の発生地が一致していることが指摘されたが、それはあくまでも限られた地域のみであり、さらなる調査が必要だと明記している。

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