認知症を受け入れ生きる人が見つける居場所 何もかもおしまいではなく他者も支えられる

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銀木犀の入居者は、程度の差はあるがたいてい認知症を抱えている。リスク回避で出入りを制限する通常の施設とは異なり、鍵はかけず入居者の出入りは自由だ。時には道に迷って戻ってこない入居者もいるが、駄菓子屋に来ている子どもたちが気づいて一緒に帰ってきたこともあり、近くのコンビニからも連絡が入る。「普段から交わっていることで、認知症の人を地域が自然に受け止めてくれている」(下河原氏)。

世話されるだけでなく役割を持つことは自立支援にもつながる。認知症の人が積極的に地域に出て仕事をしているのが、東京都町田市のデイサービス「DAYS BLG!(デイズビーエルジー)」(BLG)だ。取材当日は雨だったが、BLGのメンバー(利用者)4人は、近隣のホンダの販売店で展示用車の洗車作業を行っていた。

「やっぱり働かないと」

ほかのメンバーにコツを教えるなど、中心となっている村山明夫さん(66)は、メンバーとなってすでに5年。子どもは独立し、今は妻と2人暮らしだ。BLGには週3~4回通い、ほぼ毎回、洗車やポスティングを担っている。認知症と診断された当初はほかのデイサービスも試してみたが、「のんびり遊ぶだけではつまらない。やっぱり働かないと」(村山さん)と思い、BLGを選ぶようになった。洗車作業のほか、業務用のタマネギの皮むきやチラシ折りなど地元企業から仕事を受け、有償ボランティアとして報酬を得る。

BLGを運営するNPO「町田市つながりの開」理事長の前田隆行氏が、全国に先駆けて、十数年前にこうした活動を始めた。前田氏は、就労ありきではないと強調する。「地域とのつながり、やりたいことを実現するための仕事であり、やりたくもない作業を強いられるのは本末転倒だ」。実際、BLGでは毎朝のミーティングでメンバー一人ひとりに、その日に取り組みたいことを聞いて、当日の作業を決めている。

取り上げた医療や介護の最前線では、認知症の本人にとって居心地がよい場を提供しようと取り組んだ結果、地域との一体化が進み新たな役割が生まれてくる。周囲から何らかのサポートを受けながらも、別の側面では他者の生活を支える。少子高齢化が進む地域社会の中で、認知症の人は居場所を見つけている。

『週刊東洋経済』10月13日号(10月6日発売)の特集は「認知症とつき合う」です。
風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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