「無名」のハナコがコント王者に輝いた決定打

ずば抜けた表現力で「犬を演じる」岡部の功績

そう、実はこのコントにはいわゆる「ボケ」のようなものは1つも含まれていない。岡部が演じている犬をそのまま本物の犬として見るならば、誰もが知っている日常的な光景が広がっているだけだ。ことさらに笑いを取ろうとするような仕掛けは一切ない。

それなのに、このコントは笑える。たまらなく面白い。それは、コントの中に出てくる犬が、あまりにも忠実に犬そのものの本質を映し出してしまっているからだ。犬がもし人間の形をしていて、人間の言葉を話せるのならば、こういうふうに見えるだろうし、こういうことを考えて、こういう行動をするのだろうなあ、という真実味がある。

たとえば、このコントに出てくる犬は妙に大人びた話し方や動きをする。多くの人は人間より小さい犬という動物全般をなんとなく「子供っぽい生き物」と感じているため、それが人間の大人っぽく振る舞っているのがおかしく感じられる。しかし冷静に考えてみれば、犬にも人間と同じように年齢があり、ほとんどの犬は「子供」ではなく「大人」である。大人の犬がもし話せるのならば、大人びた口調で話すのがむしろ自然だ。それに違和感を覚える我々の方が犬を見誤っているのである。

「犬をありのままに演じる」だけで笑わせる岡部

もちろん、大人であっても犬と人間は別物だ。犬は人間と比べれば短絡的で幼稚な行動を取ることもあるだろう。そんな大人の犬を人間が演じることで、大人の人間が幼稚に振る舞っているように見えて、笑いを誘うのだ。

ただ、ここで起こる笑いの本質は「大人が子供っぽく振る舞っていること」自体にあるのではない。犬をありのままに精密に演じるとこういうふうになる、という新たな視点を提示しているところが面白いのだ。私たちは岡部が演じる犬を見ることを通じて、私たち自身が犬という生き物をきちんと客観的に把握できていなかったことに気付かされるのである。

このコントの根幹を成しているのは、犬を演じる岡部の表現力の豊かさである。岡部の意識は、犬そのものを忠実に再現することだけに注がれていて、見る者の邪魔をしていない。その結果、人間が犬を演じているのではなく、人間という素材を通して犬そのものがそこにいるように見えてくる。見る側に自然にそう思わせてしまう岡部の演技力はずば抜けている。

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