「ICOCAポイント」導入に隠されたJR西の狙い 格安の「昼特きっぷ」販売終了したかった?

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ただ、さまざまなケースをシミュレーションしてみたが、ルールはわかりづらいと思う。1カ月間で、ある区間を、どの時間帯に、何回乗ったのか。イメージするのは容易ではないし、ポイントが貯まった実感が湧きにくい。あと、ポイントを貯めることのできる加盟店のリストが、9月27日現在、まだ公開されていないのも気になる。

また、ポイント計算の対象が「駅の自動改札機で出入場した時」に限られている点も、従来、複数の回数券や昼特きっぷを使っていた人にとってハードルが高くなる。

たとえば、山科駅から京都駅経由で大阪駅へ向かう際、還元率の高い「時間帯指定ポイント」を付けようとすると、山科駅の次の京都駅で降りていったん自動改札機の外に出たうえで、もう一度ICOCAで入場し直し、大阪駅へ向かう必要がある。途中下車するのは面倒だが、のりこし精算機や自動券売機でのICOCAの利用はポイントの対象外とされているから仕方ない。

変化する「JR vs 私鉄」の構図

ICカードの利用率向上が狙いというポイント制の導入だが、関西の鉄道を取り巻く経済情勢が変わる中で、割引率の高すぎる昼特きっぷを見直すタイミングだったのかもしれない。

昼特きっぷの販売は国鉄時代の1983年にスタート。相次ぐ値上げでライバル私鉄に利用者を奪われた対策として導入した。注目されたのは、JR西日本が発足してからである。主婦向けにキャンペーンを展開し、利用の少ない平日昼間の需要拡大に取り組む。大阪―高槻間の1988年度の乗客数は前年比で11%増と急速に伸びた。土曜や日曜・祝日も使用可能にしてユーザーの声に応えた。

逆に苦しくなったのは並行する大手私鉄だ。90年代に運賃値上げを繰り返したことで形勢が逆転した。阪急は対抗策として1995年から割引率の高い時差回数券(平日昼間限定)や土・休日回数券の販売を始めた。

だが、この10年ほどで、JR西日本と関西大手私鉄の対立構造にも変化が生じてきた。関西地区の人口減で、多くの路線で通勤通学需要が落ち込み始めたため、協力し合う場面も増えた。

JR西日本と、大手私鉄などが組織するスルッとKANSAI協議会は、2009年に「ICカード乗車券を活用した連携実現に向けた合意書」を締結した。JR西日本のICOCAが先払い方式(プリペイド)を取っているのに対し、スルッとKANSAIのPiTaPaはクレジットカードと紐付けした後払い方式(ポストペイ)と運用方法が異なる。連携により、双方の長所を活かして協力し合うことを確認した。

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