イギリス「離脱強硬派」が怒りを隠さない理由 「きっぱり離脱」を求める声が広がっている

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LMLの赤いTシャツを着ている男性(筆者撮影)

会場の外で、LMLの赤いTシャツを着ている男性がいた。「なぜLMLのメンバーになったのか?」と聞くと、「自分がいちばんこだわっているのは、民主主義だ」という。「民主主義の根幹となる投票行為によって、離脱が決まった。それなのに、政治家は離脱にいろいろな条件を付けて交渉している」。

「チェッカーズ案は片足は離脱に、もう片足はEUに置いているようなものだ。国民投票の時、私たちは離脱か残留かの二者択一を迫られた。離脱の意味がわからなくて投票したのではない。ブレグジットによる影響も考えて、そのうえで選択した。LMLの運動を通じて、きっぱりとEUとの関係を断つ離脱にしたい」

新たな国民投票、その現実性は?

離脱派が懸念する、「第2の国民投票」は実現可能なのだろうか。9月25日、労働党は北部リバプールで開催されていた党大会で、第2の国民投票決行を1つの選択肢とする文書を採択した。離脱派の懸念は妄想ではなかった。

ブレグジット交渉の膠着状態を打開するため、労働党は総選挙の実施を望んでいるが、それがかなわない場合、「ブレグジットについてのすべての可能性を支持する」という文書である。この「すべての可能性」には第2の国民投票も含まれている。

イギリスのユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのアラン・レンウィック氏(憲法問題専門)は「国民投票実施には、実施法案を議会で審議する必要がある」と指摘する(英BBCラジオ番組「ブリーフィング・ルーム」、9月20日放送)。法案の提出から投票日まで「最短でも22週かかる」。2019年3月末のブレグジット実施予定日までに間に合うようにするには、「遅くても10月第2週までに」法案を提出することが必要で、レンウィック氏は現状では時間が足りないという。

しかし、「来年3月というブレグジット実施日を先伸ばしにすることは、理論的には可能」(BBCの欧州部長カティヤ・アドラー氏、同番組)。

メイ首相は「絶対に第2の国民投票はない」と述べているものの、離脱派は懸念を隠しきれない。自分が投じた票が無効化される可能性への恐怖や怒りがある。もし早急に法案が提出され、国民投票がまた実施されることになった場合、「民主主義が踏みにじられた」と感じた国民による暴動が発生する可能性もあると専門家は指摘している。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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