東京モーターフェスに見える深刻な世代断絶 老害と若者が車に求めるものはどう違うのか

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まずはシートへの正しい座り方をレクチャーしたうえで、いろんなクルマの運転席に座ってもらう。

「シートが体をどうサポートするか?」「骨盤を立てた疲労の少ない姿勢で座れるか?」「座面の安定感はどうか?」「ペダルやステアリングの位置は適切か?」「平常時に余分な筋力を使わないか?」「とっさの事故回避の操作が行いやすいか?」 などの運転環境を検証するものだ。別にものすごい横Gがかかる運転を想定したものではない。

停止状態のクルマの駆動輪の直前にこぶし大の石を置く。この石をなるべく動かさずにそっと乗り越えてもらう。石が動いた距離でランキングを付けてもいいだろう。ただし、いろんなクルマでやってもらう。パワートレインのできやスロットルの制御がダメなクルマと良いクルマが多分わかるはずだ。

あるいはS字状の一本橋を作って両端に少し高くしたヘリをつける。運転席から遠い左前輪を乗せて、目視できないこの一本橋をステリングのフィールを頼りに走る。ステアリングの精度やフィールが一発でバレる。これもいろんなクルマでやってもらえば良い。

要するに「良いクルマとは何か」という体験をいっぱいして、試し方を覚えてもらう。どれも時速ひとけたで体験できるイベントだ。まったくエクストリームじゃない。そういう理念の体験はクルマを設計しているエンジニアなら無数に考えつくはずだ。

「未来を見せる」という手もあるはずだ

もうひとつは未来の体験だ。東京モーターフェスの会場はお台場だ。せっかく市街地での開催なのに、サーキットみたいなところのほうが似合うようなイベントばかりやることに疑問を感じてしまう。

これも個人的な意見と断るが、15年か20年先の交通の姿をリアルなお台場で再現するというような手もあったのではないかと思う。屋内で開催される東京モーターショーでは「モノ」か「ジオラマ」を見せるのが精いっぱいかもしれないが、東京モーターフェスだったら、本物の市街地に未来の交通システムを再現して、実際に動かして体験させることだってできるはずだ。

安全の確保は大事だが、そこは限られた状況なら何とかなるだろう。自動運転のクルマとパーソナルモビリティ、歩行者が混合で存在する空間はどんなものなのか? それをリアルに体験できるまたとない場になるはずである。

あるいはそこにトヨタの「e-Palette Concept」を模したMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を並べても良い。

トヨタの「e-Paleet Consept」(写真:トヨタ自動車)

さすがに本物を何台も用意できないだろうから、形だけのモックアップでも十分だ。トヨタが提携したピザハットにピザを焼いてもらっても良いし、事前に申し込んだ人がアマゾンから商品を受け取れても良い。現在、文字だけで伝えられている未来を、実際にその場で体験できるようにしたら、もっと未来が身近になる。

「クルマとバイクのお祭り」。それは日常生活からかけ離れたエクストリームな体験ばかりではなく、今日から続く未来の普通をよく知るための手がかりという切り口だってあるだろう。

さて、散々異論を述べておいて何だが、筆者もクルマとバイクの発展を祈っている。ということでもし興味がある人がいれば東京モーターフェスに足を運んでいただければ幸いである。

池田 直渡 グラニテ代表

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いけだ なおと / Naoto Ikeda

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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