ヨネックスが大坂なおみをサポートするワケ 「全米オープン優勝」弾みに海外開拓加速狙う

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一方でテニス用品は会社の売り上げの1割程度。テニス用品を強化し、もうひとつの柱に育てることが長年の課題だ。とはいえ、国内は少子高齢化で市場縮小が続き、2018年3月期のテニス用品の国内売り上げは約2%の減少となった。テニス用品をバドミントンに並ぶ柱に育てるには、海外を開拓するしかない。

その点で、テニスもバドミントン同様、スポンサー契約を結んだトップ選手の国際試合での活躍が企業名の認知につながり、大きな宣伝効果を生む。今回の大坂選手の活躍は、テニスが盛んな欧米で、「テニスブランドのヨネックス」をアピールする好機だったといえる。

ヨネックスのラケットの特徴(写真:ヨネックス)

1980年代、空前のテニスブームに湧いた日本では、ヨネックスは契約プロ、マルチナ・ナブラチロワ選手の活躍で、ラケット「R-22」が大ヒットしたことがあった。当時から「当社のラケットの特徴はアイソメトリックにある」(石田氏)。独自の四角ばった形状は今も変わらない。

バドミントンの技術をテニスに応用

大坂選手が使用しているラケット「EZONE(イーゾーン)」は同選手用に調整されたものであるが、販売中の「EZONE98」でも独自のアイソメトリックは採用され、縦と横のストリング(ガット)の長さを均等に近づけることで反発域が広がり不快な振動が収まりやすい。一般的な円形ラケットに比べてスウィートエリア(ボールを打つのに最適なエリア)がより広くなっている。

店頭での販売が好調なヨネックスの「EZONE98」(写真:ヨネックス)

現在、世界上位のシェアを誇るフランスのバボラは、もともとテニス用ストリング専門メーカーだった。1990年代初めにラケットの製造や販売に着手。使用選手の活躍に加え、「ラケットとストリングのブランドを統一すれば、より性能が明確に出る」との売り込みが奏功し、ラケットでも世界トップクラスの地位を確立した。ストリングは専業メーカーのものを使うのが当たり前という常識をバボラは覆し、ラケットと同一ブランドを使用する選手が増えた。

この流れに乗り、ヨネックスでもラケットだけでなく、近年テニスストリングの開発や販売に注力している。今はまだ、海外トップメーカーの後塵を拝しているが、ヨネックスにはもともと、バドミントンで培ってきたストリングの製造技術がある。ナイロンの編み方、固める接着技術などをテニスに生かして開発したストリングは大坂選手の活躍を支えている。

「大坂選手は当社が期待していた以上のよい結果を出してくれた。ジュニア選手のサポートや商品開発など、地道に積み上げてきたことが報われたと感じている」と石田氏は話す。ヨネックスのテニスラケットでの海外開拓はこれから加速していきそうだ。

中原 美絵子 フリーライター

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なかはら みえこ / Mieko Nakahara

金融業界を経て、2003年から2022年3月まで東洋経済新報社の契約記者として『会社四季報』『週刊東洋経済』『東洋経済オンライン』等で執筆、編集。契約記者中は、放送、広告、音楽、スポーツアパレル業界など担当。

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