ユーロが「基軸通貨」になれない根本理由 ユンケルEU委員長の「見果てぬ夢」

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ユーロの取引シェアはこの20年で上昇するどころかむしろ低下している。国際決済銀行(BIS)が3年に一度実施する調査で、2001年と2016年の取引シェアを比較してみると、ドルは44.9%から43.8%へわずかに低下しているが、ユーロも19.0%から15.3%へさらに大きく低下している。この分、シェアを伸ばしているのが外貨準備構成通貨としても注目される人民元、豪ドル、カナダドルなどである。ちなみにユーロはこの15年で最もシェアを落とした通貨でもある。

ユーロを域内団結の触媒として使おうとするのは結構なことだが、むしろユーロこそが脆弱な南欧経済のファンダメンタルズをさらに劣化させた要因の1つであった。「基軸通貨を目指すことがなぜユーロ圏経済のためになると思うのか」、欧州委員会はもう少し丁寧な説明をする必要がある。

また、ユーロ圏が目下抱える最大の悩みは移民・難民問題であり、ユーロが基軸通貨を目指すことが、それと何の関係があるのかという批判もあるだろう。今回のユンケル発言は現状から目をそらしたような絵空事という印象が拭えない。夢を語るのは大いに結構だが、その前になすべきことはあまりにも大きく、重い。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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