ユーロが「基軸通貨」になれない根本理由 ユンケルEU委員長の「見果てぬ夢」

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だが、それ以前にユーロには本質的な問題がある。今、ユーロ圏が実現すべきことは優先順位が高い順に(A)財政政策の統合、(B)銀行同盟の確立、(C)貿易決済通貨の拡大である(もちろんこれだけではない)。ユーロ以外の通貨であれば(C)の優先順位は高いが、そもそも(A)や(B)は「一国の法定通貨」が具備すべき当然の能力で、ユーロはこれを欠くだけで不利である。そのために、欧州債務危機が長期化・深刻化したのである。

先に(C)に言及しておくと、たとえば2012年6月から円と人民元の間では直接取引が開始されるようになった。それまではドル人民元とドル円というドルを媒介とした2つの取引が必要であったのが、ドル抜きでも取引が可能になった。こうした取引が相応の厚みを持ち、市場に効率性が備わるまでには時間がかかるにせよ、日中貿易の規模が巨大化する中で合理的な流れと言える。ユーロが基軸通貨として成り上がるためには周辺地域でこのような流れを作ることが求められる。

「財政統合」「銀行同盟」なくして「資格なし」

しかし、それよりも重要なことは「(A)財政統合」そして「(B)銀行同盟の確立」である。(A)については、6月19日、メルケル独首相がマクロン仏大統領とEU改革について議論し、ユーロ圏共通予算を創設することで合意している。規模・時期などが明示されている話ではないが、マクロン大統領は2021年にはその運用が始まると表明している。これは「年間の歳入と歳出で構成される、真の意味での予算」だという。

しかし、肝心要の財源はこれから決めるという状態であり、まだ近い将来の話にはなりそうもない。共通予算の裏づけ財源が「ユーロ圏としての収入」なのか、それとも「各加盟国からの拠出金」なのかで政治的調整の難しさもまったく変わってくる。後者ならばそうとうに揉めるはずだ。また、当然、単一銀行監督、単一破綻処理に続く欧州銀行同盟最後の柱である単一預金保険(正式名称は欧州預金保険スキーム(EDIS))の必要性も論点となったはずだが、ここについては踏み込んだ議論が避けられている。

このような重大な制度欠陥を抱えていることがユーロが外貨準備として今一つ人気がなく、外国為替取引においてもシェアを伸ばせず、地域通貨に甘んじてきた根本的な理由なのである。

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