ユーロが「基軸通貨」になれない根本理由 ユンケルEU委員長の「見果てぬ夢」

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ユーロは基軸通貨たりうるのか。

そのために、「基軸」となる通貨の条件を考えてみよう。①国際的な貿易・資本取引における決済手段であること、②ドル以外の通貨間の価値尺度の基準となること、③各国政府の外貨準備通貨として保有されること、の3つが必要条件となる。

さらに、通貨がこの条件を満たすための発行国の条件は何か。端的に言ってしまえば、世界最大の経済力と軍事力、これに裏づけられた政治力を持つ必要がある。経済・政治・軍事のいずれにおいても突出したパワーを持つからこそ、世界中から資本を集めることができ、金融市場が発展し、自国国債を筆頭とするさまざまな金融商品が取引されるようになる。そして、その通貨による価格表示が慣例になっていく。

このように考えると、「ドル以外に候補がない」という結論になる。基軸通貨には「なりたい」と思ってなれるものではなく、大多数の市場参加者から「ふさわしい」と思われることが必要だ。

ドルの地位を奪うことは難しい

人口で見ればユーロ圏は約3.4億人と米国の約3.3億人をやや上回るものの、名目GDP(国内総生産)で見れば約12.6兆ドルであり、米国の約19.4兆ドルには距離がある。ユーロ圏19カ国からEU28カ国までベースを広げても約17.3兆ドルと、及ばない(しかも、ここから英国の約2.6兆ドルが去ってゆく)。

また、経済規模で今後追いつくことがあっても(ないだろうが)、「①国際的な貿易・資本取引における決済手段」となれるだろうか。中国や日本を含むアジア地域、あるいは中南米地域が決済通貨をユーロにすることはおそらくない。「規模の経済」が働く世界なので、いったん「現在の基軸通貨」という既成事実ができると、非常な強みとして作用するのである。米国やドルの地位を揺るがすようなショックでもない限り、崩れることは考えられない。敵失を待つしかないわけだ。

ちなみにリーマンショックは敵失の1つだ。過度なドル依存の危うさを念頭にアジア地域では貿易決済通貨の非ドル化を志向する動きが出た。たとえば中国が人民元国際化の旗印の下でオフショア人民元(CNH)取引の再開や人民元建て通貨スワップ協定の締結などを進めた。基軸通貨を目指すかどうかはさておき、「ドルの一極支配に風穴を空けたい」のはユーロ圏だけではない。中国の元といったライバルたちを押しのけなければならない。

次に「②ドル以外の通貨の価値尺度・基準となること」という視点からはどうか。たとえば、円高・円安の評価基準を対ユーロで判断する時代が来るだろうか。原油や金などの商品価格がドルではなくユーロ建てで表示され取引されることが常識になるだろうか。やはり想像できない。すでに、多くの経済主体がドルを価値尺度として使い、多様な相場観もこれに基づいて形成されている。ドルのインフラを変えるのは難しく、変える理由もない。

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