新千歳空港の「天井」はどうして落下したのか 大地震で吊り天井の落下が繰り返されている

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ところが、吊り天井を取り巻く環境は一変する。2011年の東日本大震災によって、東京・九段会館の天井が落下し2人が死亡した。

モルタル製の天井の下に石膏製の天井をぶら下げるという類を見ない工法だったが、2つの天井を繋いでいた石膏柱が揺れで破損、石膏製の天井が揺れによって壁と衝突したことが、事故の引き金となった。同日には茨城空港でも待合ロビーでの天井が落下した。

見栄えよりも安全性を重視した茨城空港

人命が奪われたことで、ようやく天井の法規制が強化されることとなる。国交省は2014年に建築基準法を改正し、多数の人が利用する場所に設置される一定規模の吊り天井を「特定天井」とし、震度5弱程度の地震では損傷しない程度の耐震性を求めた。

ただし、これはあくまで新築物件にだけ適用されるルールだ。既存の物件は既存不適格(建築当時の法律には適合していたが、その後の法改正によって適合しなくなった)となる。

「既存物件の天井も自治体から改修をお願いしている」(国交省建築指導課)が、既存不適格の物件は増改築をしない限り現状の法律に適合させる義務はなく、改修に同意する所有者は多くない。

また、耐震基準を引き上げても、天井が絶対に落下しない保証はない。地震で天井が落下した熊本空港は、1981年に定められた新耐震基準に適合していたものの、「1度目の震度7の揺れには耐えられたが、2度目(の震度7の揺れ)で落下した」(熊本空港ビルディング)。

茨城空港の天井は配管や照明設備がむき出しになっている(写真:茨城空港ビル管理事務所)

改修費もかかるうえに落下の危険もはらむ天井は必要なのか。この問いに答えたのが茨城空港だ。東日本大震災によって天井が落下して以来、空港ロビーには天井板がない。落下事故を教訓に、見栄えよりも安全性を優先した形だ。剝き出しになった梁や配管ダクトを黒く染めることで、デザインとしても目立たなくした。「今のころ弊害はない」(茨城空港ビル管理事務所)といい、今後も天井板を設置する予定はないという。

熊本空港や新千歳空港を設計した日建設計によれば、「天井は施工された時期の法律や基準によって落下対策が異なる」。

国交省は特定天井の改修については補助を出しているが、建物が倒壊しなくとも、天井の落下でけがをすれば元も子もない。

今回の地震を機に、天井の安全性を全面的に見直す必要がある。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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