営業から運用、調査と意外に広い保険の仕事【損保編】
補償範囲で悩む日々だが損害調査こそが最前線
三井住友海上の大和政之氏は、入社7年目にして、保険会社の主要部署を経験することになる。兵庫県出身の大和氏は入社すると大阪の営業所に配属された。通常は3年程度で異動するのが慣例だが、大和氏は5年間同じ部署。地元の中小企業や地銀、プロ代理店と呼ばれる保険代理店専門向けの営業を担当した。
06年に不払い問題で行政処分を受けると、会社は損害調査部門を強化することを決定。会社全体で営業社員200人を異動させ、保険金支払いの体制を強化することを決定した。その一環として5年間、慣れ親しんだ営業部を離れ、損害調査部に異動となったのだ。損害調査部とは、その名のとおり、事故の損害を調査し、支払いなどの事後処理を行う部署だ。営業を“入り口”と例えるならば、損害調査は“出口”となる。
大和氏の1週間は「憂鬱な」月曜日から始まる。土日に発生した事故に関するFAXが、机の上に山積みになっているからだ。
仕事の流れはこうだ。まず自動車事故発生後、第1報のFAXが事故受付センターから送られてくる。総合職の大和氏に回ってくる案件は、事故発生原因がわかりにくかったり、重傷・死亡事故など処理に手間取るケースが多い。FAXを一読すると、まず契約内容を確認。事故の状況や車の破損具合などから、あらゆる推測をして、補償の範囲がどこからどこまでなのか、支払いが可能かどうかなどを考える。
ただ、事故を起こした契約者に確認をすると、「なぜ車にキズが付いたのかわからなかったり、(パニックに陥っていたせいで)正確な状況を覚えていないこともある」(大和氏)。話を聞いても、たとえば自損事故で車のフロント部分とリアバンパーとにキズがつくなど、1回の事故でどうしたら同時にそんなキズがつくのか、言葉の説明だけではわからない。そんなときは事故現場に直接行って検証する。百聞は一見にしかず。このキズはこの壁にこすったのだなと、現場を見ればすぐさま事故理由が判明することもある。
ただ、事故原因の追究以上に難しいのが、どこまで補償できるかという判断。補償範囲には正解がない。過去に似た事案はあっても、まったく同じ事故というものはありえない。さらに事故の判例も、地裁ごとに違っていたりするので厄介だ。また、被害者のケガもどこまで補償できるのか、物損であれば全損か、一部負担か。判断材料を集めるために、自ら医者や弁護士に相談に行くのも重要な仕事だ。
営業に5年間。当時は営業こそ会社の最前線だと信じていた。だが、損保の営業は基本的に代理店を介在して顧客と接する。今の仕事についてからは、お客様とダイレクトに話をする損害調査部こそが最前線だと感じるようになった。「保険の本質の部分に触れられる部署」(大和氏)。入り口と出口を経験した大和氏だからこそ、保険会社で働くことの難しさ、喜びを感じているのだろう。