大人が思うより子どもには世界が見えている

亡くなった母が遺した「告白文」に息子は…

「……そう、納豆だったんです! さすがにそこは空気を読んでくれよって思いませんか?! こっちはもうすでに嫌というほど納豆ばかり食べ続けているのになんでそこでまた納豆なんだよって」

顔を真っ赤にしながら、けれども同時に、どこか面白くてたまらないという顔で私に同調を求める彼女。そんな彼女に横からカイが言う。

「だってさ〜。あんまり毎日食べてるから、本当に納豆が好きなんだなあと思ったんだよ」

子どものふりをした「あの時」

口をとがらせ、子どものように言うカイを見ながら私はふと、カイが、母親の本のあとがきに寄せた文章を思い出していた。忘れようにも、忘れることができない。何しろそこには、こんな衝撃の告白がなされているのだ。

"父の家に行って、新しい恋人との間に子供がいることが発覚するあたりなんて、僕もその場に居合わせて、少し記憶にあります。小学五年生なので、いわゆる物心つく年頃ってやつだったのでしょう。
ただ、あの時、僕は“子供のふり”をしていました。いや、子供なんだから、子供のふりをするというのはおかしな話だけれども、要はわかっていないふりをしたんですね"
〈引用:『ちくわのいいわけ』(愛育社/田中りえ 著〉

大人たちの空気を読み、とっさに子どものふりをした、実際には見た目よりうんと大人だった子ども。そんな彼は、思いがけない若さで大きな喪失を経験し、悩んだり、右往左往したりしながら、いつの間にかすっかり強固な自分の世界を築き上げていた。ガールフレンドの前で子どものように振る舞う彼を見ていると、カイはいよいよ本当に、大人になろうとしているのだと感じた。

親の離婚を経験した私の子どもたちも、もしかしたらありし日のカイと同じように、親である私の前で、子どものふりをしてくれていたことがあったのだろうか。

近い将来、“実はあのときね……”なんて、子どもたちに打ち明けられる日のことを想像すると、今からもう逃げ出したくなる。

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