石破ビジョンは「実行可能な政策」といえるか 北朝鮮への対処で独自路線を表明したが…

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さらに石破氏は官邸スタッフの外部との接触についての明確なルールの創設や文書保存の義務化なども提唱したが、その背景に加計学園問題で柳瀬唯夫首相秘書官(当時)の面会記録が残されていなかった問題があったことは間違いない。

安倍政権との違いを見せたのは森友学園・加計学園問題に絡むものだけではない。外交や憲法でも石破氏の主張は安倍首相の見解とかなり異なる。

外交面では、安倍首相はアメリカのドナルド・トランプ大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領と個人的な関係を構築し、それを国内外にアピールして存在感を示してきた。だが石破氏は「友情と国益を峻別する」という立場を堅持することを表明。トランプ大統領とは関税問題、プーチン大統領とは北方領土問題で一切妥協すべきでないという姿勢を示すとともに、出馬会見の時でも安倍首相が展開したような「ゴルフ外交」を否定した。

北朝鮮への対処でも独自路線を表明

なかでも石破氏が意識したのは、拉致問題や核・ミサイル問題をはらむ北朝鮮への対処だろう。安倍首相は亡父・安倍晋太郎元外相の秘書時代から拉致問題にかかわっており、それを解決することを第一次政権から最もプライオリティが高い課題としていた。

安倍首相のやり方は「圧力と対話」を交えることで北朝鮮を対話の場に引っ張り出すことだが、石破氏は東京と平壌に連絡事務所を設置し、北朝鮮の主張を公的に検証する仕組みを作るべきだと主張している。拉致問題は包括的に解決すべきで、まずは拉致問題解決ありきから脱却すべきという点で安倍首相の主張と異なる。

この石破氏の考えの方が理屈に適っているようだが、しかしながら現実の国際社会で容易に実現できるものではなさそうだ。それは韓国政府が8月27日に南北共同連絡事務所の開設の延期を発表したことで見てとれる。

同事務所の開設は今年4月27日の南北首脳会談で採択された板門店宣言の合意事項のひとつで、8月内に開城に開設されることになっていた。この南北共同連絡事務所の開設はまさに北朝鮮にルーツを持ち、親北政策を推進する文在寅大統領の“肝いり政策”とも言えたが、トランプ大統領が北朝鮮の非核化に進展が見られないことに苛立ったためにポンぺオ国務長官の訪朝中止を指示。これにより淡くも揺らいでしまったことになる。

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