「騒音を訴えただけで禁固18カ月」という悲劇 インドネシア「宗教的寛容」の実相とは?

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「インドネシア・モスク協議会」の代表として「一般市民のモスクの音量に対する不満は犯罪ではない」との立場を示していたユスフ・カラ副大統領は今回の判決について「被告の詳細な発言は承知していないが、騒音被害を訴えただけで有罪になるようなことはあってはならない」と判決に疑問を呈した。

こうした判決への批判が噴出した事態を受けてネット上でも被告の釈放を求める署名運動が始まるなど支援の輪が広がっている。

インドネシアでは2016年に行われたジャカルタ州知事選で再選を目指していた当時のバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)知事がイスラム教を冒涜する発言をしたとして起訴され、2017年5月に北ジャカルタ地裁で禁固2年の実刑判決を受け、知事を辞任に追い込まれている。アホック元知事は現在も服役中だ。

このアホック元知事も、今回のメイリアーナさんと同じく中国系インドネシア人で非イスラム教徒(キリスト教徒)だ。インドネシアでは社会的立場だけでなく司法の場においても民族的、宗教的少数者が厳しい状況に置かれることが現在でも多いのが実情。それだけに政府、宗教団体(特にイスラム教団体)は「寛容」の精神を内外にアピールするためにも判決の不当性に言及し、司法判断さえ批判せざるを得ないのである。

少数派に気を使いつつ、多数派に反対せず

しかし、副大統領はじめ最大のイスラム教組織が批判を繰り返したところで、今回の判決が見直される訳ではない。それは国民の大多数のイスラム教徒は、今回の判決を「妥当で公正」と判断しているからでもある。

少数派に気を使う姿勢を見せながらも多数派には反対しない、それが現在のインドネシアのいわゆる「寛容」、そして「多様性の中の統一」の実相である。

8月10日、2019年4月に行われる大統領選挙で再選を目指す57歳のジョコ・ウィドド大統領はペアを組む副大統領候補にマアルフ・アミン氏(75)を選んだ。マアルフ氏はNUの総裁でありMUIの議長でもある保守派のイスラム教徒であり、イスラム教界の重鎮である。

庶民派として人気が高いジョコ・ウィドド大統領だが、イスラム教徒を「敵にしては選挙戦に勝てない」ことが75歳という高齢にも関わらず副大統領候補としてマアルフ氏を選んだ最大の理由である。しょせん、イスラム教徒が全てのカギを握るのがインドネシアであることの証左といえるだろう。

大塚 智彦 フリーランス記者(Pan Asia News)

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おおつか ともひこ / Tomohiko Otsuka

1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からはPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材執筆を続ける。現在、インドネシア在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、『民主国家への道、ジャカルタ報道2000日』(小学館)など。

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