「騒音を訴えただけで禁固18カ月」という悲劇

インドネシア「宗教的寛容」の実相とは?

メダンのタンジュン・バライに住む中国系の女性、メイリアーナさんは2016年に自宅近くのイスラム教宗教施設「モスク」から1日5回スピーカーを通して流れる礼拝を呼びかける「アザーン」の音量が大きすぎ「耳が痛くなる」としてモスクに音量を下げるよう求めた。

この苦情を聞いた周辺のイスラム教徒が激高、暴徒化してタンジュン・バライ地区にあるトリ・ラトナ仏教寺院などを報復で襲撃、寺院内部を破壊する暴動に発展した。

タンジュン・バライでは2010年頃から原因がはっきりとわからないもののイスラム教徒と仏教徒の間で感情の対立があり、緊張関係にあったことも暴動による破壊行為の背景にあったと指摘されている。

メイリアーナさんは「イスラム指導者評議会(MUI)」の北スマトラ支部が2017年1月に「彼女の発言はイスラム教への冒瀆にあたる」との「ファトワ(宗教令)」を出したことから起訴され、裁判が始まった。

そして8月21日、メイリアーナさんに対しメダン地裁は「被告は宗教、今回のケースではイスラム教を侮辱する発言をした」と認定し有罪判決が言い渡されたのだった。裁判所のスポークスマンによるとメイリアーナさんは有罪判決を受けて「後悔しているとして謝罪した」という。

被告弁護団は判決を不服として控訴した。

イスラム教組織も判決を疑問視

それだけでなく、判決直後から関係各方面から判決への批判が噴出する事態となっている。

インドネシア最大のイスラム教穏健組織である「ナフダトール・ウラマ(NU=支持者3000万人)」は「被告の発言は特定宗教に向けた憎悪の表現でも敵対心を扇動するものでもなく、宗教冒涜には当たらない」と判決が誤っているとの立場を表明。政府の「人権擁護委員会・女性問題部会」と人権団体「セタラ」などは「今回の判決は宗教冒涜罪を規定した刑法156条Aに基づくものだが、同条文は宗教的少数者にだけ厳しく適用されることが多く、解釈があいまで、その適用も不公平になりがちなこともあり改正が必要だ」と政府と国会に対し同条文の改正を求めた。

さらに国際的人権団体の「アムネスティ・インターナショナル」も「判決はインドネシアにおける表現の自由を著しく犯すものである」として被告の即時釈放を求める事態になっている。

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