女子少年院で暮らす少女の厳しい生活と葛藤 漫画「エスカレーション」が教えてくれること
そんな子どもたちの話は、24時間365日子どもたちと向き合う法務教官から頻繁にお聞きする。
『エスカレーション~塀の中の少女たち~』は、少年院という塀の中で矯正教育を受ける少女たちの日常を描いた漫画である。
主人公の橋本倫(はしもとりん)は、傷害致死という事件名によって特別少年院送致1年処遇の措置を受ける。
倫が義父にレイプされたところへ、シングルマザー家庭で育った彼氏の杉田和志がちょうど訪ねてきた。義父に怒りを振り向けようとすると、殴りかかろうとした義父が転倒し、頭を打って気絶。散乱した部屋の中で、吸いかけの煙草が引火したことで火災が発生する。彼氏を逃し、すべての罪を背負ったことが少年院送致のきっかけである。
在院者は初め「単独室」という場所に入り、寮生活となる。基本的には3級、2級、1級と上級生になるにつれて退院が近くなる。だいたい平均在院期間は11カ月程度だが、生活態度やトラブルなどによって進級や退院が遅くなることもある。
本書でも、少女同士のイザコザや規則違反などで、退院が遅れるシーンが散見される。社会から離れた塀の中の空間で、少女たちはさまざまな葛藤を繰り返し、ストレスを溜め、在院者同士のトラブルを誘発する。
本作は、倫を中心に在院者同士の関係性がいじめなどに発展し、さらに大きなトラブルを生んでいく様を描く。
ただ、一歩引いてみればそれは少年院の中だけではなく、学校や会社など、私たちの日常生活にもみられる現象であるが、塀の中という空間においては、物理的、時間的制約があるため、繰り返されるいじめの陰湿さが際立つ。
当初は仲間的存在であった在院者も、倫のそばを離れていき、倫は孤立していく。いじめ加害者の中心人物の周りには、強い者には迎合し、自分より弱い立場の者には牙をむく、これもまた少年院に限った話ではないストーリー展開だろう。
在院中の少女たちについて、なぜ彼女がそこにいるのかという背景が説明されるシーンが出てくるが、どの少女も在院前には、必ずしも幸せな環境ではない暗い影を背負っていることが見て取れる。誰もが好んで少年院という場所を選んだのではなく、成育過程の中で蓄積されたつらさや悲しみの結果として、人を傷つけたり、誰かのものを盗んだりして、ここにいるのだろう。
本作は、3つの社会的な学びを提供してくれる。1つ目は、女子少年院という場所の日常生活の一部を垣間見ることができること。2つ目は、在院している少女たちの背景にある成育に視点を移すことができるようになること。そして、最後は少年院という場所は何のために存在しているのかということだ。
和志が倫のいる少年院を訪れ、院長に諭されるシーンがある。
院は罪を罰するための施設ではなく
更生のための施設です」”
もしかしたら、少年院という世界は縁遠い場所かもしれないが、『エスカレーション~塀の中の少女たち~』を読んで、少しだけ少年院と在院している少女たちのことを知ってみてはいかがだろうか。
(文:工藤 啓)
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