深刻化するマンション不況、値引きは一段と加速、業者に半値で投げ売りは当たり前! 

拡大
縮小


 底なしの感があるマンション不況。それを象徴するかのように、マンションデベロッパーから売れ残った物件を買い取り、再販売する業者の活躍が目立ちだした。

中央線沿線の高円寺。駅から徒歩16分とやや遠い場所に建つ総戸数27戸のファミリータイプのマンション。用途地域から3階建て以上が建てられない場所だ。それだけに、マンションデベロッパーも苦戦したのか、売れ残った12戸を再販業者に売却した。

再販業者は「3LDK(68ページ)で当初、5800万円の物件を1000万円値引きし、現在5戸が売約済み」と言う。売り出し中の物件は、ベッド、キッチンテーブル、ソファなどの家具や大型テレビ、電気冷蔵庫などの家電、パソコン、食器類などすべて付けたままで売りに出されている。それでも「まだ下がると見て交渉する人もいる」と言う。

買い取りの基本方針について再販業者は「マンションデベロッパーから最初の販売価格の60%で買い取るが、できれば50%、半値で買いたい」と言う。理由は「それ以上では利益が出ないため」(同)。物件情報は仲介業者やゼネコン、さらには銀行等から月間で50~60件入る。ただ、マンションデベロッパー側も当初価格の60%では大幅な赤字は必至なだけに、「価格が折り合わないケースもまだまだ多い」と言う。そのため「今はどちらかと言えば様子見。年明けの2~3月にしびれを切らした売り物が大量に出てくると予想している」と打ち明けた。

今年の発売戸数は15年ぶりの低水準も

昨年から悪化したマンション販売は、今年前半までは価格高騰や改正建築基準法による混乱を要因として減少していた。が、最近は月を追うごとに景気後退懸念が購買手控えに影響している。不動産経済研究所の福田秋生・企画調査部長は、「今年の発売戸数は昨年の6万1021戸から4・5万戸程度まで大幅に減少しそうだ」と言う。4・5万戸と言えば、1993年の4・4万戸台以来、15年ぶりの低水準だ。さらにここへきて、資金回収や建築費の高騰を理由に建設業者がマンション建築を渋り出しており、この面からの着工遅れも懸念され始めた。マンション需要はまさに三重、四重の壁に直面している。


しかし、再販業者に物件を持ち込むのは、あくまで最終処理。多くのマンションデベロッパーは凍り付いた市況の中にも変化の兆しを見いだし、販売努力に余念はない。中堅マンションデベロッパー・アンビシャスの安倍徹夫社長は「前回のバブル崩壊の後と同様で、市況は実需主体の東京近郊から戻る」と読む。実際、同社が手がける松戸、多摩など東京近郊の住宅地ではマンション供給の大幅減少から、「実需層の“需要の溜まり”が出始めている」と指摘する。同社は以前から実需層の多い東京近郊エリアを重視してきたが、「こうした地域は用地取得が難しく、マンション供給が少ない。それだけに用地確保に注力し、3500万円以下で物件を供給できれば十分勝算はある」と言う。

値引き販売が唯一の現状打開策

高額マンションがひしめく東京都心でも変化の兆しがある。東京カンテイの都心5区の住宅地価調査(下グラフ参照)では、07年まで急騰してきた千代田区、中央区、港区のうち、千代田区と中央区は今年に入って急落、これまで市況を押し上げてきた投資・投機需要の後退を示している。同社市場調査室の中山登志朗氏は「千代田区、中央区などの商業エリアの地価はもう一段下がり、全体に05~06年の水準にならないと安定しない。が、港区などは実需が下支えしそうだ」と指摘する。

その意味で、都心のマンション市況も実需主体に動き出す気配だが、ここでも決め手はやはり価格だ。住友不動産が9月5日に抽選を行った「品川シティタワーズ」(総戸数828戸)。品川駅から徒歩10分の物件。3LDKの最多価格帯が3200万円と、この地域では破格の値段。平均倍率も18倍と高かった。低価格の理由は70年の定期借地物件で、入居者に所有権がない分、用地代が安くなるためだが、購入者の価格感応度の高さを改めて証明した格好だ。

ここへきて地価、建築費が下落し始めたが、そうした物件が竣工するまでにはまだ1年以上かかる。それだけに「早急に個人消費を促す支援策が必要だ」(安倍社長)との声も高まっている。が、それもすぐに期待できないとすれば、来年3月に向かって一段と価格引き下げが加速する可能性がある。「全治3年」といわれるマンション不況の深刻度は増すばかりだ。

一方、オフィス市況も悪化が顕著となりつつある。「東京、大阪、名古屋いずれも空室率は上昇傾向に入った。東京都心でも9月末で2年9カ月ぶりに4%台に乗せた」(三鬼商事)。六本木ヒルズを持つ森ビルでは「外資系の退出はなく、稼働率は90%を維持している」(IR担当者)としているが、今後、企業のリストラの具体化や2010年の春採用が減少することになれば「本格的な空室拡大期に入る可能性がある」(大手不動産)。優良物件の保有が多い大手不動産会社といえども、決して楽観できない局面に入ってきた。



(週刊東洋経済)
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT