トヨタが「製造業」から大転身を迫られる意味 輸送サービスを確立しなければならない事情
実際、2018年5月に開かれたトヨタ自動車の決算説明会における、豊田章男社長のコメントが印象的だ。
「私は、トヨタを『自動車をつくる会社』から、『モビリティ・カンパニー』にモデルチェンジすることを決断いたしました。『モビリティ・カンパニー』とは、世界中の人々の『移動』に関わるあらゆるサービスを提供する会社です」
製造業からサービス業に転換することは「モデルチェンジ」どころの騒ぎではなく、「競争領域のシフト」ともいえるものだが、世界を代表する自動車メーカーのトップの発言として、その影響は大きい。仮に豊田社長の狙い通りの事業展開になれば、日本の雇用市場も就業者数のシフトは避けられない。
見逃せない製造業以外への大きな影響
そして、MaaSの影響は製造業ばかりではない。
今回発表されたe-Paletteの特徴がわかりやすい例のひとつは、ピザハットである。ピザハットは、通常は電話でピザを注文すると、自宅に届けてくれるというサービスだが、e-Paletteでは、ピザハットが家の近くまで「店ごと移動」し、利用者が希望の場所(自宅でなくともよい)でピザを受けることができるといった利用法が考えられる。
「店が移動する」というコンセプトが成立する場合、「集客のしやすい一等地に店舗を構える」というこれまでの小売業の勝ちパターンが崩れることになる。「移動できない店舗」が利用者にとって魅力的でなくなった瞬間に、これまでそうした立地に新規出店をしてきた小売店の戦略が機能しなくなり、一気に負け組になることも考えられる。
また、e-Paletteのモビリティサービスパートナーにアマゾンも参加しているのがさらに気になる点だ。すでに物流において強力な交渉力を持ちつつあるアマゾンだが、配送の「ラストワンマイル」と呼ばれる、「配送拠点から各家庭の玄関までの最後の区間」においても、利用者との接点を強化しようという狙いともとれる。
このように、日本を代表する産業である自動車産業の主要プレーヤーがビジネスモデルを大きく転換することで、製造業だけではなくその周辺の産業、たとえば、タクシー業界、小売業界、そして物流業界といった産業のビジネスモデルも大きく変わっていくことになる。自動車というハードウェアが引き起こすMaaSのさまざまな産業構造へのインパクトについて、私たちはまだすべてを想定できてはいない。
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