ドイツの「バブルの芽」はどうして問題なのか ECBが適切に対処することは難しい

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こうしたデータから、ドイツの住宅価格の上昇ぶりはファンダメンタルズに即していない可能性が読み取れる。ちなみにドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)も今年2月の月報において「Housing prices in Germany in 2017」というBox欄を設け、近年の住宅価格の上昇は「経済成長や人口動態といった実体経済の観点から見て正当化できる水準を優に超えている」と結論づけている。要するにバブル懸念にほかならない。

確かに、ドイツの住宅価格上昇に理由がないわけではない。少なくとも3つの理由が考えられる。

第1に、2015年8月にアンゲラ・メルケル独首相が踏み切った移民無制限受け入れ政策(2017年には無制限を事実上、撤回)の影響である。これは間違いなく住宅需要を押し上げただろう。ドイツの外国人の流入数は他の主要国の比ではないからだ。

第2に、断続的に報じられているように、EU(欧州連合)離脱に際して英国がシングルパスポートルールから除外されることに伴って、金融機関の間に欧州の本拠をロンドンから大陸欧州の都市に移転する動きが相次いでいる。ECBのお膝元であるフランクフルトはその代表格として名前の上がる都市である。これもまた、ドイツの住宅需給をひっ迫させる一因となっていることは想像がつく。

最後に、ECB(欧州中央銀行)の単一の金融政策がドイツのファンダメンタルズに比して過剰に緩すぎるという事情も効いているだろう。その象徴がGDP(国内総生産)比でプラス8%にも及ぶ世界最大の経常黒字である。「永遠の割安通貨」による外需の取り込みが国内景気の過熱を招いている。

建設受注や建築許可件数などを見る限り、そうした旺盛な住宅需要に対応して供給もしっかり増えているのだが、価格上昇圧力を抑制するには至っていないようだ。前述のブンデスバンクの月報では工賃自体が高騰しているという事実も紹介されている。ドイツ経済が完全雇用に到達している中、建設業に割ける人員が枯渇しつつあるのだろう。

ドイツの体温に応じた冷水を浴びせられない

ファンダメンタルズを超えた価格上昇だとすれば、その背後には投機資金の流入もあると推測される。通常はそうした対内投資が通貨の増価をもたらし、それが資産価格の騰勢にブレーキをかける。しかし、周知の通り、共通通貨ユーロにはこうしたメカニズムを期待できない。

2つの論点がある。まず、不動産取得を目的とする対内投資が他のユーロ加盟国から来ているものだとすれば為替レートにはそもそも無関係である。そうではなく、たとえユーロ圏外からの投資であっても対ドイツのフローだけでユーロ相場全体が上下動することはあり得ない(いわゆる「永遠の割安通貨」問題)。いずれにせよドイツ国内への資金流入によって通貨高が起きないため、通常期待される、通貨高がストッパーになるという機能が働かない。

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