「女性医師」に必要なのは、労働環境の改善だ 医師たちが理想とする「医療現場」とは何か

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日本の医師たちは、24時間医師であることを求められている。女性医師の数も少なく、多くの医師が病院に寝泊まりしていた時代にキャリアを積んできた医師の世代は、これを当然視する傾向が特に強いと感じる。

そういう医療現場の風土において、子育てしながらのキャリアアップは、やはり大変である。

保育園のお迎えの時間があるから帰宅しなければならないときに患者が急変し、緊急手術となったとしよう。当然、その女性医師は手術に立ち会えず、同期の男性医師が代わりにその手術で執刀することになった。そういった状況が日常業務の中で頻繁に起こりうる。

そうなると、子育て中の女性医師としては、当然、その男性医師のほうが職場では評価されるのが当たり前だと思ってしまう。実際に評価されることが多いだろうし、男性医師のほうが医師としての経験を早く重ねていき、キャリアにも差が出てくる。

こういった状況の中、女性医師の復帰をしっかりサポートしてくれる体制がなければ、育休取得後に職場に復帰することや子育てしながら勤務し続けることが困難になり、離職してしまうこともある。

女性医師のキャリアアップを考えるうえでは、現在の医療現場にはびこる風土を変える必要がある。とはいうものの、残念ながらこの問題を根本的に解決するのは容易ではないだろう。

医師が疲弊していたら良い医療は実現できない

理想を言えば、医師の多様な生き方が許容され、男性、女性に限らず、そのキャリアの継続がサポートされるようになってほしい。

患者説明(インフォームド・コンセント)が上手な医師もいれば、手術の腕が抜群の医師もいる。優れた研究を進めていく発想力や企画力を有する医師もいれば、後輩の教育に情熱を注ぐ医師だっている。子育てとの両立を喜びとする男性医師や、結婚よりも仕事一筋に生きたいと思う女性医師がいてもいい。

それぞれの医師が特性を伸ばしていける医療現場を構築していくことが大切ではないだろうか。

患者の命を預かる医師が疲弊していては、より良い医療は実現できない。より良い医療のためには男性、女性、あるいは診療科に限らず、医師たちが生きがいを感じて活躍できる環境が不可欠である。

小倉 加奈子 病理医

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おぐら かなこ / Kanako Ogura

順天堂大学医学部附属練馬病院病理診断科先任准教授、臨床検査科長。2006年順天堂大学大学院博士課程修了。医学博士。病理専門医、臨床検査専門医。2014年よりNPO法人「病理診断の総合力を向上させる会」のプロジェクトリーダー。病理医や病理診断の認知度を上げる広報活動として、中高生を対象とした病理診断体験セミナーや、がんの出張授業などを幅広く行っている。プライベートは高校1年と小学6年生の2児の母。松岡正剛氏が校長を務めるイシス編集学校の師範としての指導の経験を活かし、医療と教育をつなぐ活動を展開している。

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