アメリカにはTAA(貿易調整支援)プログラムが存在し、自由貿易によって職を奪われた国民に手当を支給する仕組みがある。オバマ前大統領は1962年に導入されたTAAを拡大し、「賃金保険」(強化された失業保険)を導入しようとした。しかし、このような控えめな提案ですら、アメリカでは日の目を見ることはなかった。
筆者は2003年に出版した『新しい金融秩序』で、民間保険会社による「生計保険」の導入を提唱した。職種やスキルに応じて保険料を納め、長期的に収入が失われるリスクに対応する商品だ。このような保険があれば、転職の決断も容易となり、経済成長にもプラスとなる。しかし、このような保険も、まだ実現していない。
自尊心を傷つけずに国民を守るには?
失業保険を拡充するのが難しいのはなぜだろうか。理由の1つは、政府による所得再分配が負け組に対する施しのようにみえてしまう点にある。ただ、グローバル化が加速し格差が広がるなか、人々は長期的な所得環境にますます不安を覚えるようになっている。国民の自尊心を傷つけることなく、グローバル化のリスクから国民を守る道を見つけ出さねばならない。
幸い、方法はたくさんある。公立学校や国民皆保険制度に税金が投入されるのをみて、施しだと思う人は少ないだろう。全国民に恩恵が及ぶからだ。国民の大半が公立校で学び、公的な病院にかかるようになれば、富の再分配は負け組のための慈善活動ではなくなる。
補助金を通じて政府が民間による生計保険の導入を後押しするのも、ひとつの手だ。民間の競争原理を用いれば、政府が直接手当を支給するより、効率的で独創的な失業対策が可能となるに違いない。
トランプ氏の貿易戦争は世界的な悲劇だ。だが、これを奇貨として失業保険制度を改善するのであれば、悲劇をハッピーエンドに変えることも不可能ではない。
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