65歳の「花火師」が絶対に譲れないこだわり 夏の風物詩、花火大会を支える職人の技

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篠原氏の横顔も紹介しよう。結果的に花火師の5代目となったが、幼い頃から「花火道」を仕込まれたわけではない。一般学生のように進学し、東海大学文学部広報学科で学んだ。卒業後は、広告制作の仕事に就く予定だったそうだ。

「親父(一雄氏。1992年に死去)からも『跡を継げ』とは言われませんでした。当時の花火屋は、本人が『やる』と言わない限り、安易な気持ちでできる仕事ではなかったのです」

先輩に広報・広告業界関係者が多く、当時は引っ張ってくれる時代だったが、卒業間際に不景気で就職予定先の採用枠がなくなり、進路を模索する。そんな時期に、有名な花火師だった青木多聞氏(1994年に死去)が自宅にやってきた。

「帰りにクルマでお送りしたのですが、車中で『世の中の花火を見て歩きなさい』と教示を受けました」

気持ちを入れ替えて花火師の父の下で修業に入り、青木氏の教えのとおり、さまざまな花火を見て歩いた。当時は、自分のつくる花火とのレベルの違いに愕然としたという。一方、父・一雄氏からは「あきるほど、やらなければだめだ」と言われ、この言葉も心に刻んだ。かつて父が製作した「ひまわりの花」と呼ぶ花火玉は、後年、息子が進化させていった。

篠原氏の打ち上げる花火は、自社の広告塔でもあり、大学時代に描いた「表現制作」でもある。若き日の思いを大空で実現しているのかもしれない。

「マナー」を守って楽しみたい

こうして紹介すると、花火師には地道なモノづくりと、大会を彩るコトづくりの両面が必要なことに気づく。国の火薬類取締法などの厳しい基準もあり、同法の「製造作業に関する技術基準」と「保安管理技術」に基づいて製造を行う。打ち上げる場合は「煙火消費保安手帳」保持者という資格も必要だ。花火工場の立地にも条件が設けられる。

業界団体も実務家が運営し、日本煙火協会の広報担当である河野晴行氏(専務理事)も、もともとは花火師で、業界大手のホソヤエンタープライズ元社長。隅田川花火大会など首都圏の主要な花火大会を多く手がけ、海外でも「日本の花火」を多数打ち上げた経験を持つ。筆者は仕事柄、多くの業界団体と向き合うが、かなり実務度が高い組織だ。

最後にマナーも紹介したい。各大会では「道路や公園へのマーキング」や「防御柵に上る行為の禁止」など、「観戦時のお願い」が公式サイトでも紹介されている。

1987年「西ベルリン市制750周年記念祭典」での打ち上げ準備をする河野氏(右側)

また、各家庭や友人・知人と行う花火は、法的には「がん具煙火」と呼ぶ。一般家庭などで使われるという意味もあるようだ。日本煙火協会では、6月から8月を“花火安全消費月間”と定め、「ルールを守って楽しい花火」の啓発活動を続けている。

「日本の花火は世界的にも注目を集める文化芸術」だという。夏の伝統的な楽しみである大小の花火大会が、安全に楽しくできるよう、私たちも心がけたい。

高井 尚之 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント

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たかい なおゆき / Naoyuki Takai

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)がある。

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