65歳の「花火師」が絶対に譲れないこだわり 夏の風物詩、花火大会を支える職人の技

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ひとくちに「花火大会」といっても、大会の規模も違えば、打ち上げ場所の環境も違う。

花火師の篠原茂男氏(筆者撮影)

「たとえば『土浦』『大曲』『赤川』といった全国大会は準備も大がかりとなります。どんな花火大会でもそうですが、大勢のお客さんの前で火薬を爆発させなければなりません。

一方で小さな大会はお客さんとの距離も近い。いずれも安全・無事が大前提です。そのうえで、主催者側の要望や打ち上げ場所の環境などを考えて、演出方法を企画します。状況次第でできないこともあり、その場合はできませんと言います」(篠原氏)

当日の天候や風向きなどを考慮して準備を行うが、特に臨機応変の対応が求められるのは「ゲリラ雷雨」だという。

「実は現在の花火は、プログラミング作成でデータを入力し、コンピュータ制御にして打ち上げます。“手打ち”と呼ぶ、手動で上げることはまずありません。人も機械も雷で感電するわけにはいかないので、そうした注意も必要となります」

ハイテクを駆使する一方、モノづくりはローテクを追求するのが篠原氏の流儀だ。

「これ、前も見たよね」と思われない工夫

「この場所で何がベストなのかを、いつも考えます」と話す篠原氏にはモットーがある。

須坂みんなの花火大会で上がった花束付の銀が入った色の花火(撮影:Noriko Naka)

上は「大玉」(10号玉とも呼ぶ直径約30センチの花火の玉)から、下は「小割物」(同3センチの玉)まで、すべて手作業でつくり、打ち上げ演出を考えることだ。現在は、仕入れ品を使うことも可能だが、絶対にそれはしない。

「買った花火球は誰が打ち上げても同じですが、自分たちでつくったものはオリジナル。おカネをいただき、花火を打ち上げるプロとして妥協したくありません」

そもそも花火師の仕事は、大きく分けて4つある。

(1)花火玉を作る

(2)花火大会の演出・準備作業

(3)花火を打ち上げる(大会当日)

(4)大会後の後片付け作業

篠原煙火店では最盛期の夏に向けて、標高850メートルの高地にある自社工場の雪解けを待って、4月から花火玉をつくり始める。その数は年間7000~8000玉になるという。

花火玉を製作する篠原氏(写真:篠原煙火店)

なお「打揚花火」(=協会はこちらの文字づかい)には、大きく2種類の花火玉があり、菊のように球形に開く「割物」と、花火玉が上空で2つに開き、中から星などが放出する「ポカ物」がある。大小の花火玉と、割物・ポカ物をどう駆使するかも、花火師の腕のみせどころといえる。

「観戦するお客さんの目も肥えているので、『あ、やっぱり』『これ、前も見たよね』と思われない工夫も大切です。『次、何が上がるんだろう』と思われたいですね」

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