「いったい、どんな話が飛び出してくるのか」
ソファに座りながら緊張して待っていると、あのときとは打って変わって「貴婦人」の装いをした女性が出てきたのだという。「あのときはどうもありがとう。本当に楽しかったわ」と言い、これまたいかにも高級そうなピスタチオを出してくれた彼女とは、その後、小1時間ほど雑談をしただけであった。社長はますます「???」と首をひねってしまったというわけなのである。
帰国した社長は、フランスの事情に詳しい友人にこの不思議な体験を話し、「あれはいったい何だったのか」とメールで尋ねてみた。するとこの友人からはものすごい勢いで返事が返ってきたのだ。
「お前知らないで会ったのか? その女性は、フランス金融界屈指の銀行で頭取を務める人物の夫人だぞ」
これを聞いた社長が、腰を抜かすほど驚いたのは言うまでもない。だが、どうしても納得がいかなかったのが「なぜよりによって飛騨高山へ」ということだったのだという。この女性は確かにわが国へはやって来たが、ピン・ポイントで「飛騨高山」だけを見て帰ったのである。「なぜ、欧州財界の大物の夫人がお付きも連れずにこんな山奥に……」。社長の脳裏では謎が謎を呼ぶだけであった。
それから約半年。私と出会うまでに社長は実に大勢の「外国からの不思議な訪問客」を飛騨高山で迎えてきたのだという。たいていの場合、素性がまったくわからないものの、カネ払いのよい人物ばかりだ。同時に、決まって「何か」を飛騨高山で探している様子であった。
だが決してそれをアテンドする社長に語ることはなく、くまなく歩き回り、最後は得心しかたのように満足した様子で帰っていく――。「彼ら、いったい何しに来ているのでしょうか。どう思われますか、原田さん」。これが、社長があの夜の宴で発した疑問だった。
私は直感的にこう答えた。
「ひょっとして彼ら外国人の富裕層たちは、“東洋のスイス”を探しに来ているということはありませんか。社会的に見てランクの高い人物がわざわざやって来る以上、大切な資産管理と関連があるとみるのが適当だと思います」
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