トヨタ「3代目センチュリー」一体何が凄いか

月販目標50台の希少車をその歴史からたどる

このドア後端の切り欠きと、後席背もたれの位置関係については、スバル1000も同様であった。1966年5月に発売されたスバル1000は、日産サニーやトヨタ・カローラと並ぶ国産大衆車の1台として誕生した。国産車では当時まだまれな前輪駆動(FF)の4ドアセダンであり、後輪へエンジンからの駆動力を伝えるプロペラシャフトが不要であったことから、床を平らにし、室内空間を広げることができた。また後輪を後ろへ配置することもできたためであろう、後席背もたれが後輪のホイールハウスより前にあり、後ろのドアを開けるとセンチュリーと同じように乗り降りしやすくなっていたのである。

最新の3代目センチュリーでは、サイドシルに飾られるスカッフプレートと床との段差を減らし、フロアマットを用いれば床とドア開口の下部が平らになり、足を持ち上げなくても外へ足を下せるようにしている。

また3代目に引き継がれているのが、中央のドア支柱の内側に設けられた靴ベラの差し込み口だ。長時間の移動で靴を脱ぎたくなったとき、降りる際に革靴をすぐ履けるようにする配慮である。

自動車の評論は、操縦安定性や運転の面白さなどを語ることが多いが、実は、家族や仲間と出掛ける際には同乗者の乗り心地や快適さが重要な評価対象であり、乗り降りのしやすさもそこに含まれる。スバル1000や歴代センチュリーの後席の乗降性は、今日でいうユニバーサルデザインの一例であり、運転手付きで乗るクルマに限らず、高齢化社会を迎える日本にとって見習うべき姿でもある。

1台ずつ手作りされているセンチュリー

センチュリーの生産は、初代から手作りである。

センチュリーは、トヨタ自動車東日本(元関東自動車工業)の東富士工場で製造されている。組み立て工程は、作業者4人が1組となり、3万点近い部品をすべて組み付ける。部品点数が多いだけでなく、機械部品から電気部品まで多岐にわたり、それらを適切に組み立てる広範な知見も求められる。またプレス機械で成形された外板も、一点一点職人が出来上がりを点検したうえで組み付けられる。

大量生産と対極にある製造法を今日なお継続するセンチュリーの生産現場(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

トヨタといえば、均質な製品を大量に生産するトヨタ生産方式や、カイゼンといった言葉が有名で、まさか手作りされるクルマがあるとは多くの人が想像していないだろう。ところがセンチュリーに関しては、まさに人が手で組み立てているのである。

その様子は、ガソリンエンジン自動車というものが誕生して間もない19世紀末から20世紀初頭にかけてドイツで行われていた、ロッド生産を見るかのようだ。ロッド生産とは、製造工程ごとに熟練した職人がおり、その下の工員を使いながら部品を製造し、出来上がった部品を組み立てていく方式である。

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