というのも、貿易活動を広げることによって輸出入規模をともに増やすことを通じて、これまで米国の国民の経済厚生が高まってきたからだ。そして、貿易収支など対外バランスは、自国の経済活動(投資と貯蓄のバランス)によってほぼ決まる。このため、米国が、拡大した貿易赤字を減らすことを目標に掲げても、それは自国の経済成長率低下によって実現するケースが多くなる。
つまり、貿易赤字削減にこだわる政策が続けば、自国経済を不安定化させ、成長率を引き下げるリスクを抱える。また、関税引き上げによるインフレショックが加われば、2%近傍のインフレ安定を達成しつつあるFRB(米連邦準備制度理事会)による金融政策の運営を今後困難にする可能性もある。しかも、米国では拡張的な財政政策を行っており、自然体で貿易赤字が拡大する。
経済全体の成長率に妥当な政策運営ができるか
このように、経済全体の一部分(対外部門)である貿易収支などに、必要以上にこだわる経済政策は妥当とは言い難く、成功する可能性は高くない。今後米国が貿易赤字削減にこだわり関税引き上げを続けることを、筆者はメインシナリオとはしていないが、関税引き上げの悪影響が米国に跳ね返り、経済成長率の押し下げるリスクシナリオも想定できるだろう。
また、今の米国のように、貿易収支という経済の一部門の赤字を是正する対応が成功する可能性は低いが、これと同様に経済の一部門である政府部門の財政収支の是正にこだわりすぎるとその政策も、同じように成功しない場合がある。経済の一部門である政府部門の財政赤字を「不健全」とみなして、経済情勢を踏まえず財政赤字削減に注力し過ぎると、それが緊縮政策として経済全体にとって悪影響をもたらす、ことが起こりうる(その結果、財政赤字がかえって増えることもある)。
例えば、2012年まで債務危機に直面した欧州諸国では、債務危機収束のために周縁各国が大規模な緊縮財政を強いられてきた。その後、2012年央からのECB(欧州中央銀行)の金融緩和強化策が大きかったが、同時に緊縮財政が和らいだことも手伝い、危機が収束しその後欧州経済は何とか立ち直った。
また、日本についても、2014年の消費増税後の失敗を踏まえて、財政健全化の優先順位が低くなり、デフレ脱却に主眼を置いた経済政策運営にシフトしたことが、2016年以降、日本の経済成長率が持ち直す要因になった。
これらのケースは、経済の一部門の「収支」や「赤字」を問題視することなく、経済全体の成長率にとって妥当な政策運営に徹することが重要であることを示唆する。「赤字」を過度に問題視しない政策が、経済成長を高めそれが金融市場にもポジティブに作用するのは、いずれの国においても変わらないと思われる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら