WOWOWが「テニス中継」に全力でこだわる理由 報われない20年間を、「錦織選手」が救った

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ただ、テニスデイリーはWOWOWの放送に関連したコンテンツだけではなく、ジュニアや中学、高校、大学、実業団などアマチュアのニュースも取り上げている。サイトの方針として、テニス自体の普及や競技人口の底上げを掲げているためだ。アマチュアの中でも人気なのは高校生の大会の記事。インターハイなどの期間中は、サイトのアクセス数も伸びる傾向にあるという。今年3月には全国選抜高校テニス大会を取材し、試合動画を配信するなど、アマチュア選手のコンテンツも拡充の動きが活発だ。

テニスデイリーで無料のウェブ会員になると、限定記事・動画を楽しめる。ウェブ会員はWOWOWの重点施策で、将来的に有料放送に加入してもらうのが狙いだ(画像:WOWOW)

テニスデイリーを統括するネット事業推進部の藤岡寛子ユニットリーダーは「野球やサッカーはプロリーグの存在に加えて、競技人口も多いから人気がある。高校生やジュニアの動向も積極的に取り上げることで、テニス自体を盛り上げていきたい」と意気込む。

テニスの普及を支援する取り組みは続く。今年4月にはTBSテレビやアプリ開発会社のジールズと共同で、テニスプレーヤー向けのマッチングサービス「TenniSwitch(テニスイッチ)」を開発、リリースした。「練習相手を探すのが難しい」というプレーヤーの悩みに応えたものだという。

リアルにおけるプレーヤー同士の交流も狙い、ユーザー向けのイベントも積極的に開催する考えだ。「デジタルだけの取り組みは飽和状態。イベントに参加して楽しかったなど、体験を通じて“自分ごと”にしてもらうことが重要だと考えている」(藤岡氏)。

「DAZN」はテニスをも狙うのか

WOWOW自身としても、テニスアンバサダーを務める伊達公子氏と協力したイベントや、アマチュア選手が集まる試合の主催など、将来の可能性を探る。そうした取り組みを続けていけば、「日本におけるテニス文化が拡大し、テニス人口が増えることで、将来的にWOWOWの加入者も増えると考えている」(前出の田中社長)。

ただし、昨今のスポーツ放送・配信は戦国時代。日本でも動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」(英パフォームグループが展開)が猛威を振るう。2016年には、10年間・合計2000億円に及ぶ巨額の放映権契約をJリーグと結んだ。2018年からはプロ野球11球団の主催試合を配信し、男子プロバスケットボールB.LEAGUEの試合も配信するなど、スポーツファンに欠かせない存在となっている。

WOWOWの強みであるテニスについて、他社に放映権を奪われる可能性はないのか。清水氏は「グランドスラムに関しては20年以上の実績がある。権利元とは良好な関係を保っており、長期で考えてくれていると思う」と説明するが、リスクはもちろんゼロではない。

20年以上にわたる賭けに勝ち、ようやくテニス人気を手にしたWOWOW。放送だけでなく、デジタルとリアルの取り組みで、さらにテニス界を盛り上げることができるか。本当の正念場はこれからなのかもしれない。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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