WOWOWが「テニス中継」に全力でこだわる理由

報われない20年間を、「錦織選手」が救った

テニスは年間を通じて試合が開催されるため、継続的に視聴を促せるコンテンツだが、「テレビ向きではない」という特徴がある。それは試合時間が読めないからだ。一方的な試合なら1時間程度で終わるが、フルセットにもつれ込み、5時間超の長丁場となることもある。毎日決まった時間に放送する帯番組を編成する地上波テレビでは扱いが難しい。その点、柔軟な編成が可能な有料放送にとっては有利だった。

また、現在のように有料放送が乱立していなかった当時、視聴者は比較的金銭に余裕のある層が多かった。テニスは高貴なスポーツとされており、「テニスファンはWOWOWが狙うユーザーに近いという思惑もあったようだ」(同社スポーツ部の清水大志プロデューサー)。

意気揚々とテニス中継を開始したものの、なかなか人気は出ず、新規加入者の獲得にもつながらなかった。一方で放送にかかる費用は大きな負担だった。放映権料はもちろん、取材スタッフの派遣にもおカネはかかる。社内での評価も決して高いものではなかったという。

社内では“お荷物コンテンツ”ともいわれた

当時、日本人選手では伊達公子選手が世界トップレベルで戦っていたが、絶頂期の1996年に突然の引退(1度目、後に復帰)。その後、シングルスで活躍する日本人選手は長らく現れず、テニス中継が注目されることはなかった。「今ほどテニスというスポーツにバリューもなく、社内では“お荷物コンテンツ”といわれていた」。清水氏は不遇の時代をそう振り返る。

それでも、WOWOWはテニスをあきらめなかった。むしろ積極的に拡充を進めたほどだ。2011年にはそれまでの1チャンネル体制から、「プライム」「シネマ」「ライブ」の3チャンネル体制に移行、放送枠は格段に増えた。前後して、楽天ジャパンオープンなど、放送するテニスの大会を増やしている。2012年にはライブ配信と見逃し配信を開始。ピックアップコートも2013年に始めるなど、WOWOWでしか見られない仕組みで、テニスファンが集まる下地を着実に作っていった。

男子シングルスで長年前線で活躍してきたフェデラーは、日本のテニス人気にも貢献。今年のウィンブルドンではまさかの敗退となった。今般、ユニクロとのスポンサー契約が明らかになっている(写真:Getty Images)

転機は突然訪れた。2014年、錦織選手が全米オープンで日本人初の準優勝という快挙を成し遂げたのだ。待ち望んだ日本人スターの登場に日本中が沸いた。WOWOWにも加入者が殺到し、この年の9月の新規加入件数は15万超と過去最高の数値を記録した。その後も米国育ちの大坂選手がグランドスラムで競合選手を次々と撃破するなど、日本におけるテニスの注目度が増し、WOWOW内での人気は一気に高まっていった。

テニス人気の爆発で盛り上がったのは、放送・配信だけではない。2013年からWOWOW子会社が運営するウェブメディア「テニスデイリー」の重要度も一段と増した。大会の試合速報や特集記事、海外のニュースを提供し、有名選手のスーパープレー動画も見られる、テニスの情報サイトだ。

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