株式市場の低迷は「米中貿易戦争」のせい? 気がかりな点は、むしろ別なところにある

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こうして売り上げが鈍化したことに加えて、原材料費や人件費の上昇が進んでいるため、3~5月期の四半期決算の利益はさらに押し下げられている。典型例は吉野家ホールディングスだ。同社の2018年3~5月期は、同期としては5年ぶりの最終赤字に陥った。3~5月期の決算が総じて良かったのは百貨店で、これはインバウンド消費、すなわち日本人以外の消費に支えられたことが大きい。

6月の動向については、既に小売・外食企業の6月分の月次売り上げが公表されてきている。好悪両方が目に付くが、既存店の売上高前年比がよかったのは、エービーシー・マート、アダストリア、ジーンズメイト、ユナイテッドアローズ(特にネット通販を含む既存店売上高)などで、逆に悪かったのは、アークランドサービスホールディングス(「かつや」など)、ファーストリテイリング(ユニクロの国内既存店)などだった。このため、5月ほど不振ではなく、まちまちという感が強いが、一方で5月の暗雲を一気に晴らしたとも言い難い。

こうしたなか、7月9日(月)14時には、6月分の景気ウォッチャー調査が公表される予定だ。同指数の数値だけではなく、どんなコメントが寄せられているかも注目したい。

前出のように、内需の動向を懸念しながらも注目している理由は、海外発の悪材料が日本株にも押し寄せてきているためだ。輸出株は買いづらい環境が続く。このため消去法的に個人消費関連である小売、外食、並びに消費財メーカー(資生堂など)に物色が移ったが、問題は予想PER(株価収益率)などの投資尺度からみて、そうした内需系企業の株価はかなり割高になっていることだ。それでも内需系企業の株を買い上げるには、企業収益の一段の改善が求められるところであるが、それがやや心もとない、という状況なわけだ。

牽引役不在のなか、日本株の値動きは限定的か

全体観から言えば、国内企業の増益基調が続いていること、現在の円相場の水準を前提とすれば、輸出企業の自社収益見通しの上方修正が期待できること、予想PERでみて東証1部全体が割安さを強めていることなどから、今年の晩秋から初冬にかけて、日経平均株価は2万4000円を大きく超えてくると予想している。

ただし、「では、どういった業種、どういった企業の株価が、その上昇相場のけん引役となるのか」という点については、述べてきたような輸出企業対内需企業という比較で考えても、首をひねらざるを得ない。おそらく「牽引役なき強気相場」になるのだろうが、その「牽引役の不在感」が、日経平均が5月、6月と2回、2万3000円前後で跳ね返されて反落した背景にあるのだろう。

そうした流れのなかで今週は、先週末にかけての世界株価持ち直しが持続し、日経平均は上値探りの展開になると見込んでいるが、一方で投資家の慎重な姿勢も続いており、出来高の低迷が継続する懸念がある。今週の日経平均株価としては、2万1600~2万2300円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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