歴史に学ぶ「米中貿易摩擦」の行きつくところ 85年前の「米中"銀"対立」を知っていますか
本年4月中旬以降、人民元は対ドルで約6%下落した。中国人民銀行は「貿易問題に対処する手段として人民元レートを利用することはない」と言明し、エコノミストや市場関係者の多くも人民元安が米中貿易摩擦と関連しているとはみていないようだ。
だが、人民元安が始まったのは米国が中国からの輸入品500億ドル相当に関税を課すと発表したすぐあとであり、人民元レートは中国政府がほとんど自由に設定できるということを考えれば、人民元安と貿易摩擦との関係を疑わないほうが難しいように思う。
米中が銀をめぐって対立したときは、中国が幣制改革を断行し、元の対ドルレートは約30%下がった。政府は元安を狙ってはいたが新レートを強制したわけではなく、マーケットで自然に形成された元安だったのだが、そのおかげで米国の銀政策がもたらした悪影響は消え去った。
今回も、表向きには自然に形成された為替レートにより、米国の関税賦課による経済への悪影響を吸収しているとは考えられないだろうか。関税率の分だけ元安になれば高関税による価格上昇分を帳消しにしてしまうことができる。米国からの輸入量は少ないので輸入物価上昇により中国経済が被る影響は小さい。
中国は為替レートの調整で応じる?
中国による対抗処置に対し米国が中国からの輸入2000億ドルに対する追加関税で応じた場合、中国は果たしてどうするか、この稿を書いている時点ではわかっていない。なんらかの対抗措置をとるにしても中国の米国からの輸入額は2000億ドルに満たないので、同額の追加関税で応じるとしてもあまり意味がない。
中国は為替レートの調整で応じるのかもしれない。むろん、はっきりとそういえば米国に為替を操作していると批判されるので公式には認めない。しかし、暗示的な対抗措置として米国に対して圧力をかけることができる。
中国には報復関税等の明示的な形で応じないことにメリットがある。もともと自由貿易の旗振り役であった米国がますます保護主義的となる一方で、中国は開放的であると国際社会に示し、国際経済の主催者と成りうるのだとアピールすることができる。
対抗措置をとらないという大人の度量をみせ、中国は寛容であると、覇者の徳を示すことができる。
銀をめぐる米中間の対立においてはポンドからドルへと基軸通貨の重心が移動し、米国は覇権国の地位を引き寄せたが、それから約85年を経た今回の米中対立は、それが米国の手を離れ中国へ移る重要な要因のひとつとなるのかもしれない。
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