歴史に学ぶ「米中貿易摩擦」の行きつくところ 85年前の「米中"銀"対立」を知っていますか

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縮小

日本については、一時的ながらも漁夫の利を得た。

中国は幣制改革を断行する直前、銀の輸出に対して高率の税を課すことで銀流出を食い止めようとした。ところがその結果、銀の内外価格は数十%も乖離するようになり銀の密輸が激増した。中国の銀は北方の山海関を越えて満州国に密輸出され、日本はそれを高値で売却して大きな利益を得た。

中国については、経済が大いに復活した。1元40セントを超えていた為替レートは1元30セントを下回るまで下落し、貿易量が増え、生産活動は上昇し、物価は緩やかに上昇した。恐慌状態にあった中国経済は米国の銀政策を契機とする幣制改革により一気に回復したのだった。

そして世界経済には、巡り巡って構造変化がもたらされた。中国の銀本位制度からの離脱により銀は大航海時代から続いた国際通貨としての地位を失った。一方で、米ドルは基軸通貨としての地位を高めた。

中国は幣制改革を実行するにあたり、銀に代わる対外支払準備をある程度確保しておく必要があった。幣制改革実行直後に中国は米国に5000万オンスの銀を売りドルを獲得して、それを対外支払準備とした。それまで中国経済はイギリス、もしくはポンドの強い影響下にあったが、これにより米国、もしくはドルの影響下に軸足が移ったのである。両大戦間期は基軸通貨としての地位がポンドからドルへと移行した時期だが、米国の銀政策がポンドからドルへの交替を後押しすることとなった。

他国に損を与える政策は自国に跳ね返ってくる

この85年前の歴史経緯をトランプ政権と中国とのあいだの貿易摩擦に当てはめつつ考えてみるとどうか。

まず、中国製品に高関税が課されたとき、①米国の消費者はそれでも高くなった中国製品を買い続けるか、②米国製品を買うようになるか、③日本など他国の製品に乗り換えるか、のいずれかとなる。

②となれば米国の生産者は利益を得るが、①や③の場合には当初目論んだ利益の一部もしくは全部が失われる。そして、いずれの場合においても米国の消費者は従来よりも高い価格を支払わなければそれらの製品を手に入れることができなくなるので損をする。

約85年前の銀政策がそうだったように、他国に損を与える政策をとっても結局は自国に損が跳ね返ってくる。自国に利益どころか損をもたらす政策はいずれ放棄されるべきで、1935年12月に米財務省は大統領の同意を得て銀購入を停止した。果たして今回はどうなるか。

それでも他国に比べて米国の損が一番小さいのであれば、かろうじて「アメリカ・ファースト」の政策と言えるかもしれないが、米国の損が一番小さいかどうかは疑わしい。上記の③となれば日本など第三国が得をする。ただ、米中間貿易の縮小が両国経済の収縮につながり、それが国際経済に悪影響を及ぼすことを考えれば、第三国も損をするが米中両国に比べれば損が小さい、というところか。

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