トランプの対中貿易戦争は利敵行為にもなる 米国への「返り血」を避ける工夫はあるが

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USTRは今年4月3日にも中国に対し25%の追加関税を賦課するリスト(500億ドル相当)を公表しているが、このときの課税対象は資本財43%、中間財41%、消費財12%だった。5月中旬に開催された対中関税に関する公聴会やそれまでに寄せられたパブリックコメントにかんがみ、消費者利益を重視した課税配分に変更したことが読み取れる。

「貿易戦争はトランプ大統領にとってディール(交渉)材料の1つ」という大方の解釈はおそらく正しいだが、相手の出方が完全には読めない中で追加関税の執行に手をつけざるをえない事態も十分考えられる。そのような段階に至ってもまずは家計部門ではなく企業部門が犠牲になるよう、最低限の配慮をしている様子がこうした動きから見て取れるだろう。

トランプ大統領は今さら自由貿易を支持できない立場にあろうから、こうした微妙な力の加減を織り交ぜながら各国との折衝を重ねていく場面は今後も増えそうである。しかし、対症療法的な修正を入れ込んだところで、いずれ家計部門への被弾も避けられなくなるだろう。自身の課した関税で自国民が苦しくなるという笑えない状況が発生することになる。

まず中国の対日輸出攻勢を警戒

なお、こうした米中貿易摩擦が日本にもたらす影響をどう考えるべきか。ありうる展開として、米国市場へ参入できなくなった中国企業が代替市場を模索し始めるという動きを警戒したい。米国市場の代替市場はどこにもないが、それでも極力近隣で大きな経済力と人口を持った市場を狙うというのが合理的な企業行動になるだろう。真っ当に考えるとそれはやはり日本である。

すでに一部報道では、日本の経済官庁幹部の声として、中国製の建設用鉄鋼・アルミ加工品やカラーテレビ、空調部品などの輸入急増を視野に「競合する中小企業の懐を直撃しかねない」といった懸念が伝えられている(6月30日、時事通信)。米国から押し出された中国勢が日本へ押しかける展開は確かに論理的に想定されるものだ。

しかし、これらはあくまで間接的な影響にとどまる。日本にとっての脅威は、現在検討が始まっているとされる輸入自動車に対する25%追加関税の先行きである。6月29日、日本政府はこうした措置は「世界経済にとって破壊的な影響を及ぼしうる」と公式な立場を表明しているが、その声がはたしてトランプ政権に届くのかは定かではない。

日本が本当に貿易「戦争」を実感する事態になるとすれば、自動車産業を巻き込んだ交渉に至るときであって、その場合は日本の通貨・金融政策のあり方にまで影響が及ぶ展開もありうる。自動車関税にかかわる詳細な議論については別途、機会を設けたい。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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