なぜランドセルが一番売れるのは7月なのか 平均購入額は5万円超、「祖父母が購入」が6割

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例年、売場展開などのお手伝いをしているが、いつも目にする光景がある。

1つは、欲しいランドセルを巡る「子v.s.保護者」の攻防だ。支払いは祖父母でも、ランドセルを選ぶのはお子さん本人である場合が多い。そのため、売場で安い商品を薦める両親や祖父母、でも価格のことは気にせず高いランドセルを欲しがるお子さんとのバトルがしばしば見られる。なお、サイズではA4フラットサイズが70%を占めている。これは学校での配布資料がA4判であることが多くなったからだ。

もう1つは、選ぶ色のジュネレーション・ギャップだ。「本当に、この色でいいの?」と親に言い聞かせられている子どもたちが、いかに多いことか。祖父母と親の世代では、男子は黒、女子は赤が定番で、それ以外はほとんど見られなかった。それがいまでは、男子は黒が多いがそれでも他色が30%を占め、女子では1位は桃色(ピンク、ローズ)だ。親子のジェネレーション・ギャップがおこっている。

売場スタッフへのアドバイス

こうした世代間の意識のずれを解消するためには、ランドセル売場からメッセージを発信する必要があるだろう。

まず、売場のPOP広告(売場に掲示されている販売促進の広告)を工夫して欲しい。購入金額の平均単価、購入したランドセルの色などの情報は、ぜひとも陳列棚に貼りだして、売場から伝えるべきだ。

また、陳列棚が3段になっている場合は、大人から見れば一番上段が目につくゾーンになる。しかし、入学前5歳の平均身長は約110cm(出所:文部科学省「平成29年度学校保健統計調査」)なので、真ん中の2段目に人気商品を配列すべきだ。

そして、陳列棚に直にランドセルを置くのではなく、高級品を大切に扱っていることがわかるように、サテン布の上に陳列すると良いだろう。さらに言えば、スタッフが取り扱う際には、白い手袋をしてお子さんに試してもらいスタンド・ミラーで確認、お声がけも目線にあわせて中腰になるなど接客にも配慮するとなおよいだろう。こうすることで、一度しかないランドセル購入という機会を特別なものにできるのではないだろうか。

その場で購入を決められないときもある。そのため、同じ売場に戻ってもらうために、顔写真入りの名刺を準備、その名刺はお子さんが読めるように平仮名書きにしておく。裏面は通常の名刺タイプで、両親や祖父母に1枚ずつ渡すようにする。あくまでも、お子さんが一番の重要顧客だから、最初にお渡しすべきだろう。こうすれば、顔を覚えてもらい再来店を促すきっかけづくりになる。

お子さんの好きな色や迷った品番、会話のポイント(質問の回答など)を書き出したカルテとなるメッセージ・カード(連絡先や次回の予定なども掲載)を、別に準備するのもいいだろう。

ランドセルを購入する際の不安を解消して、気分よく購入してもらいたい。満足度の高いスタッフがいることで、顧客の立場に寄り添った親和性の高い購買体験がショー・ルーミング(実店舗をショールーム代わりに利用し、そこでは購入せずネット通販で安く購入すること)の防止策になる。

今年も夏を向かえ、ラン活のピ-ク時期が到来する。ぜひとも、6年間、子どもの学業に伴う大切な唯一のランドセルを、家族総出で楽しんで購入してもらいたい。

新山 勝利 研修講師、マーケティングコンサルタント

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にいやま しょうり / Shouri Niiyama

専門領域は店頭マーケティング、購買心理プロセス、顧客満足度。飲食店のコンサルティングでは、点数を分析したデータ主義で売上向上を図り「食べログ」の評価3.50点達成を推進する。顧客満足を高める販売促進、店舗の活性化や売場づくりのためのノウハウを提供。メーカーや全国の商工会議所などの団体、広告代理店、卸売、量販、チェーン店などが主要顧客。他業界の成功事例を用いて、写真や図表を活用した説明を行う。世界30カ国、150都市を歴訪。中でもフランス・パリには30回訪問。諸外国の先進的な産業事例にも造詣が深い。多数の専門誌に執筆するほか、各種マーケティング学会で論文発表。著書に『売れる商品陳列マニュアル』(日本能率協会マネジメントセンター)など。公式サイトはこちら

 

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