カローラとシビックの5ドアが復活した意味 トヨタとホンダの看板車種はどう変遷したか

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カローラとシビックが転換を余儀なくされたのは、グローバル化の影響だ。

1990年代後半になると、世界の自動車メーカーの離合集散が活発化する。400万台クラブと呼ばれ、実は根拠のないマーケティング言葉が世界を巡り、各社が振り回された。400万台クラブとは、生産台数が400万台を超えるメーカー規模にならないと、生産の合理性から21世紀に生き残れないとする理論である。達成するには、合併による企業の肥大化と、グローバルカーと称する世界共通の車種展開による大量生産が必要とされた。

しかしそれらは、今日では単なる机上の論理であることが実証されている。逆に、400万台規模前後の自動車メーカーが苦境に立たされている。

このあおりを受けたのが、大衆車として誕生した、サニー、カローラ、シビックではないだろうか。

グローバルカーとして車体寸法の肥大化は避けて通れない(撮影:梅谷 秀司)

サニーは、大衆の身近なクルマとして車名を公募し、生まれた。しかしいまやサニーは存在しない。カローラはその立場を守ったが、グローバルカーの波に押され、国内仕様と海外仕様を別仕立てにしなければならなくなった。シビックは、市民のクルマであることを車名としたが、グローバルカーとして車体寸法の肥大化が避けて通れず、ついには国内販売を一時期中止した。

世界統一の基準で小型の「大衆車」は無理がある

グローバルカーは、机上の計算から採算を重視して考えられた構想であり、世界統一の基準で開発されたクルマなど、どの地域においても交通環境や住環境、生活環境に適合しえない代物である。

クルマは、ことに小型車に類する車種は、地域の道路事情や住宅事情、あるいは暮らし方や経済状況に合っていなければ機能しない。その仕切り直しとして、新型シビックやカローラが市場に出てきた。とはいえ、もはや大衆車の面影はなく、両車ともスポーティで躍動的なクルマであることを印象づける登場の仕方をしてきた。

新型シビック、カローラとも全幅は1700mmを超えるが、日本人の間に競合となるのは国産のアクセラ、インプレッサ、輸入車のゴルフ、Aクラス、1シリーズ、A3、V40などは、それぞれにスポーティで運転を楽しめる車種が存在する。かといってスポーティさが各輸入車の価値や個性を象徴しているわけではない。基本は実用性であり、そのうえでの上質さや、個性的なデザイン、安全性の高さといったことが、それら輸入車を価値づけ、個性を際立たせている。

欧州車にとって、走りがいいことは言うまでもなく前提である。欧州は、一般公道でさえ時速80キロメートルで走れる交通環境があり、そこで操縦安定性や安全が満たされなければ話にならないからだ。そのうえで、ことに走行性能を重視する消費者のために高性能車種が存在するだけのことである。

新型シビックやカローラは走りのよさを前面に打ち出しているが、その価値は本当に消費者の心をとらえるのだろうか。もちろんほかの商品性も十分備えているはずだが、走りがいいことを強く打ち出すことにより、本当のよさが印象に残らなくならないか、そこが気掛かりだ。

競合車の多い市場で、新型シビックとカローラがどれほど消費者の目に留まることになるのか。日本メーカーの小型車に対する価値の与え方にとって、1つの試金石になる気がする。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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