ミレニアル世代をつかむ欧米スポーツの戦略 スポンサーシップの真の価値はどこにある?

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欧米のスポーツの現場を観察してみると、銀行や保険会社、通信会社などの社名をよく見かける。昨冬NBAのワシントン・ウィザーズ戦を現地観戦したが、このチームの本拠地の名称は「キャピタル・ワン・アリーナ」(キャピタル・ワンは米大手銀行)だ。

メジャーリーグにも同じく大手銀行名が入った「チェイス・フィールド」(アリゾナ・ダイヤモンドバックスの本拠地)、通信会社名が入った「AT&Tパーク」(サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地)などがあり、大手保険会社「GEICO」の看板やCMはアメリカのスポーツ中継を見ているとよく目にする。

これらの業種には「商品やサービスそのものが特別な興味を引きにくい」「価格帯や内容に大きな違いがない」といった特徴があるが、そこにスポーツの要素を組み込むことにより、強い興味・関心・注意の獲得につながる可能性が高くなる。

「A銀行とB銀行の商品は大差ないけれど、好きなチームのスポンサーだからA銀行を選ぼう」という動機づけだ。さらに社会貢献的なプロモーションが成功すれば、信頼・信用の構築にまでたどり着くことができる。すると、「社会的にすばらしいことをしているからA銀行を選ぼう」という違ったアプローチでの動機づけが可能となる。

ミレニアル世代は「共感」で選ぶ

なぜ、そのアプローチが必要なのか。それは、1980年~2000年生まれの「消費に保守的」と言われるミレニアル世代が、社会や環境に寄与するかどうかによって商品やサービスを選ぶ傾向があるという研究結果が出ているからだ(2015 Core Communications “Millennials CSR Study”:Regan Arts社『GOOD IS THE NEW COOL』より引用)。

単にブランドの認知度獲得を目的としたプロモーションでは、金利の良し悪しよりも“共感”で銀行を選ぶ世代の心をつか むのは難しい。商品やサービスの価値を伝えることも重要だが、ミレニアル世代に対しては企業自体を愛してもらう努力が必要となる。スポーツは、それを表現しやすい方法の1つと考えられるのではないだろうか。

少なくとも20~30年前は、欧米でも“共感”というキーワードはそこまで重視されていなかっただろう。しかし、現在では社会への還元が若い世代の興味・関心の獲得につながるという共通認識が存在している。日本でも、企業CSRとプロスポーツの相乗効果が活発になる日が近いかもしれない。

岡田 真理 ライター

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おかだ まり / Mari Okada

1978年静岡県生まれ、立教大学文学部卒業。プロアスリートのマネジャーを経て2007年よりフリーランスライターとして活動。『週刊ベースボール』『がっつり!プロ野球』『スポーツナビ』などで執筆するほか、『谷繁流キャッチャー思考』(日本文芸社)『北島康介トレーニング・クロニクル』(ベースボール・マガジン社)などの書籍で構成を担当。2014年に野球を通じてチャリティーなどの社会貢献活動を行うNPO法人「ベースボール・レジェンド・ファウンデーション」を設立。「プロ野球静岡県人会」の事務局長、および侍ジャパンU12監督・仁志敏久氏が主宰する野球振興プロジェクト「ホームベースクラブ」の運営も行っている。

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