不可解ともいえる「米朝首脳会談」裏側の真実 NSC開催なし、内部対立、大統領メモ廃棄・・・

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歴史的に見て、通常アメリカ政府はこれほど重要な首脳会談では、事前に何度も閣僚級および次官級の米国家安全保障会議(NSC)を開催する。

そこに、米国家情報会議(NIC)や米国家情報長官(DNI)、米中央情報局(CIA)など情報機関から数々の報告書が提出される。こうして、北朝鮮の核開発の現状を分析し、対策を練り、「非核化」計画を立案し、北朝鮮に対する要求と交渉戦略を決める。

米国立公文書館で過去の米政府文書を読み解くと、おおよそそんな手続きが想定できる。

北朝鮮との交渉に臨むため、ポンペオ国務長官は総勢100人以上の専門家から成る省庁間チームを結成、「北朝鮮の各種兵器の解体に関する問題を検討している」と明らかにした。

そのチームには、エネルギー省の研究所から博士号を持つ数十人の核兵器専門家、情報コミュニティから北朝鮮担当の専門家が加わっている。北朝鮮の生物・化学兵器、ミサイル問題を担当する専門家もいる。

しかし、これら専門家はあくまで裏方だ。

北朝鮮側と交渉で対峙する基本方針や戦術は通常、NSCで検討する。しかし、検討作業を行った形跡が見られない。明らかにNSCは司令塔の役割を担っていなかった。

また、通常NSCは、首脳会談に臨む前に、大統領が相手側に対して発言する要点を記した「トーキング・ポインツ」(Talking Points)を作成する。大統領は一言一句その通りに発言しなくてもいいが、要点は押さえておく必要がある。

ビル・クリントン氏のような若くて頭の回転が速い大統領は1995年当時、筆者を含めた3人のインタビュアーと会った時、直前に報道官から20分程度、要点の説明を受け、的確に回答することができた。

他方、故ロナルド・レーガン大統領は正確を期すため、中曽根康弘首相との日米首脳会談でも、カードのような紙片を手にして、要点を確認しながら発言していた。

しかし、トランプ氏は、金正恩党委員長との1対1の会談の際に何も持っていなかった。自信家のトランプ氏は、テレビの番組宣伝さながらに、会談前から雰囲気を盛り上げ、会談が始まると相手を気遣う所作を繰り返した。「テレビマン」と同じような振る舞いで、場を取り違えていたように見えた。

明らかに準備不足

まして、今度の会談相手は異形の独裁者。CIAはこれまで、素顔の金正恩氏を知るすし職人藤本健二氏のテレビ・週刊誌での発言はすべて英訳、元プロバスケットボール選手、デニス・ロッドマン氏からも事情聴取して、正恩氏の心理プロファイリングに努めた。2度にわたるポンペオ氏の訪朝にも心理分析の専門家を同行させた。

しかし、トランプ氏は、こうした分析を参考にしたのかどうか。

会談後ご機嫌な様子で上気し、1時間以上も記者会見を続けたことから見て、そもそも北朝鮮の「核武装」「非核化」を安全保障の立場からきちんと理解していたとは思えない。

トランプ政権側は明らかに、準備不足だった。事前の北朝鮮側との協議で反対されたためか、非核化に伴う検証や非核化の対象、期限などを共同宣言に盛り込む意図は最初からなかったのかもしれない。

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