マクラーレンの驚異的成長を導いた力の正体 ランボルギーニに並び、フェラーリを追う
池田:さらにビッグスさんのおっしゃる特別な体験のために情報が混濁するようなパワーステアリングやブレーキのブースターを採用しない潔さがありました。ゴードン・マレーには現役のフォーミュラー設計者として「本物はかくあるべし」というピュアな思想があったと思います。しかし、マクラーレンMP4-12C以降、シートは通常の並列2座になり、パワステもブレーキブースターも装備しています。それでも特別な体験を与え続けられるものなのでしょうか?
ビッグス:F1はおっしゃるとおり世界初のカーボンモノコックシャシーで、当時最先端の航空宇宙産業のテクノロジーを移植して作られました。それによって軽く、靭(つよ)く、安全であるという重要な性能を飛躍的に向上させました。
現在のマクラーレンも同じDNAを継承しています。最高のドライビングエクスペリエンスのための最先端テクノロジーが注入されているのです。テクノロジーはつねに進化し続けています。プロダクトを進歩させていくためには何ができるか。たとえば革新的な素材などですね。それはまったく同じ要素ややり方を続けていくことではありません。エートス(信条)は同じでも手法は異なるのです。
池田:5月18日に都内で開いたマクラーレン・セナ発表会のプレゼンテーションの中で、アイザック・ニュートンと運動の第2法則が出てきました。これは非常にマクラーレンらしい説明だったと思います。物理法則に徹底して従うクルマづくりという意味で非常に得心がゆきました。
というのもゴードン・マレーのF1はまさに物理法則を優先したものだったからです。エートスは同じでも手法は違うとおっしゃいますが、たとえばペダルのオフセットは限られた物理的なスペースの配分です。それは具体的にどのような手段で解決しているのでしょうか?
次にどんな技術を提供できるかを考えている
ビッグス:自動車産業は一般的に見て段階的に進歩してきています。モデルチェンジや新型車が登場する度に新たな段階に到達します。われわれマクラーレンは基本を見失わないようにしつつ、次にどんな技術を提供できるかを考えています。物理の基本に忠実であるからこそ今回のプレゼンテーションでニュートンの第2法則の話をしたのです。
新しいクルマを作っていくに際して、それを実現するための根本的問題はどこにあるのか? そしてそれをどうやって解決していくのか? これまで考えたことのないことまで考え抜いています。たとえば今回登場した「マクラーレン・セナ」に関して言えば、開発ドライバーのケニー・ブラックがインターフェースの理想的配置について徹底的に検証しています。優秀なスペシャリストたちの徹底的な検証によって、マクラーレンは進歩しているのです。
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