マクラーレン、6年で年商1000億円の奇跡

ブランドをどう作り、ビジネスに仕立てたか

本来量産に向く手法ではないながら、技術革新によって昨今はフルカーボンモノコックを採用する例も増えつつあるが、当時の水準を見れば1995年に発売されたフェラーリF50ですら、キャビンの下半分のみにカーボン構成体を用いるバスタブ型シャシーで、ルーフまでのカーボン化はされていない。

カーボンモノコックは、すでにF1の世界で立証されたとおり、徹底した軽量と高剛性、安全性を高い次元でバランスさせたければ当然の選択肢であり、それを市販車に用いるならルーフまでカーボンで形成することは誰でも考えつくことだが、著しく低下する生産性や高騰する生産コストを考えれば、断念するのが常識だ。

スーパーカーの設計上の課題は単純化するとこういうことになる。前後方向では、運動性能のためにホイールベースを短くしたいにもかかわらず、最高速を担保するために巨大なエンジンを背負う必要がある。短いホイールベースにエンジンと人をどう共存させるのか? 左右方向で言えば剛性確保のために前後輪間のねじれを阻止する大断面の構造部材をキャビンに縦貫させる必要があり、かつ高性能ゆえに幅の広いタイヤが必須となる。

限られた空間に対して機械と人との場所の奪い合いが発生するのが常だったが…(撮影:尾形文繁)

なりゆきで作れば車幅がどんどん増えるが、道路幅の制約から野放図に広げるわけにはいかない。そして空力の都合で車高も下げたい。つまり限られた空間に対して機械と人との熾烈な場所の奪い合いが発生する。

その結果、この種のクルマは、結果的にドライバーのポジションにシワ寄せが行くことが慣例になっていた。ゴードン・マレーという人はやはり鬼才と呼ぶにふさわしく、この奪い合いに新しいソリューションを用意した。ひとつはすでに述べたとおり、ルーフを含めた外骨格に応力を負担させることで、大断面の貫通構造材が不要になるカーボンモノコック構造だ。車の幅いっぱいまで広げた構造材の中に運転席を設けて人を座らせたと考えても良い。

非合理的なフォームでは良い結果は得られない

中央に運転席、左右にそれぞれ助手席を設け、運転席のみを前進させることで人体の最大幅部位である肩と腰が重なることを防いだ。横方向のスペース問題をカーボンモノコックによって解決し、さらにシートアレンジによって、従来2人並列でも厳しかったキャビンに3人掛けを成立させた。

また同時にこのオフセットした横3人掛けのレイアウトは、ドライバーを中央に座らせることで、フロントタイヤに蹴られてペダルレイアウトが不自由になることを回避し、理想的なドライビングポジションを保証することを狙ったレイアウトでもあった。人体の運動において、非合理的なフォームでは良い結果は得られない。それはどんなスポーツでも同じである。マレーは、レースというフィールドで、ドライバーが意のままに操縦できなければ勝てるクルマにならないことを熟知していたのである。

その思想が端的に表れている部分はほかにもある。当時1億円のプライスタグが下げられたこの富裕層をターゲットとするクルマに、ブレーキの倍力装置(ブースター)やパワステを装備することをマレーは拒んだ。操作系のフィードバックに雑味が混じることを嫌ったのである。当然ブレーキは筋力勝負になるし、ステアリングも片手でクルクル回せない。

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