アラフォー女子3人がチーム起業で得た自由 漠然とした不安を抱く女たちの働き方を導く

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「自分自身が産育休を取ってみて、こんなに社会から隔絶される感覚があるんだとわかったんです」。生まれたばかりの子どもと2人で、薄い膜の中に入っているような感覚。社会は確実に存在しているのに触れられない、自分とつながっているようでつながっていない。SNSが自分と社会をかろうじてつなぐ、細く開けられた窓のようだった。

確たる理由もなく自分が母親として怠けているのではないかと思うような罪悪感や、自信のなさ。普段は感じないような細かなことを気にしてしまう「閉ざされた心理」を田中自身も経験してみて、女性が再び社会とかかわりを持つためのきっかけをこれまで以上に後押ししていきたいと、思いを新たにしたという。

政府は、2018年補正予算にリカレント教育(社会人の学び直し、生涯教育)関連費用として、25億円を組み込んだ。文部科学省も、大学などにおけるリカレント教育の拡充方針を打ち出している。労働力が目に見えて減少する少子化、ましてリンダ・グラットンによれば「人生100年」の時代、私たちは男性も女性も「75歳まで働き続ける必要がある」との話に、目眩さえ感じてはいないだろうか。

自分をバージョンアップしていく意識が必要

そんな時代の到来には、誰もが自分にとって心地よい環境や条件で働き続けられる社会の枠組み作りが必要不可欠であり、そのためには私たちの側にも「自分をバージョンアップしていく意識が必要」なのだと田中は語る。

社会の進化スピードが速い時代には、自分が持つスキルの陳腐化も速い。1社に勤め上げるという意識や制度が崩れつつある今、学び直しによってより磨かれた人材となることで、開ける道も数多いだろう。またいったん離職した人が、新しいスキルを手に入れることによって復職の機会を得ることもできる。リカレント教育が注目され拡充される潮流は、男性であれ女性であれ、働き続けたい現代人にとって朗報なのだ。

一度専業主婦になったら二度と職にはつけないかのように考えられていた時代はとうに過去のもの、「ワークアゲイン」と呼ばれる主婦の復職熱も高まっている。「PTA活動やプロボノ(ボランディア)などを通して、主婦の期間の活動もキャリアの一部ととらえ、スキルアップをすることは可能です」。

学生時代、大人たちから「自由には責任が伴う」と耳にタコができるほど聞かされた世代。自由で柔軟であるためには、自分の側にもそれなりの備えがいる。裏返せば、自分の側に準備があれば、私たちは自由でいられるのだ。

本人の思いと「バージョンアップ」の意識さえあれば、「自分らしく」学ぶタイミングにも、働くタイミングにも制約はない。Waris共同創業者の3人ともいまや母親であり、それぞれ産育休も経験し、河に至っては現在、夫の海外赴任先へ長期出張中だ。キャリアのある人生を進む女の姿を、同時代に生きる女性職業人として田中たちが自ら見せてくれている。

人生100年時代を生きて行くすべを、彼女たちもまたリニアにリアルに試行錯誤している。それが同時代の働く女性たちを何よりも勇気づける。

河崎 環 フリーライター、コラムニスト

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かわさき たまき / Tamaki Kawasaki

1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭高校から親の転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、長女、長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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